さうすぽー

スパイの妻のさうすぽーのレビュー・感想・評価

スパイの妻(2020年製作の映画)
3.2
自己満足点 62点

蒼井優がヤンデレじみてる(^_^;)

ヴェネツィア国際映画祭で監督賞(銀獅子賞)を授賞した黒沢清の作品。

もともとこの作品はNHKのBS4Kのチャンネルにて放送されたテレビドラマだそうで、それを音響と映像の質感を劇場用にアレンジされた「劇場版」だそうで。
イ・チャンドンのバーニングといい、今年の37セカンズといい、NHK製作の作品は質が高い!


映像は美しいです。
黒沢清の作品は「CURE」しか観てませんが、「CURE」同様に長回しを多用する美しいカメラワークが観れます。
特に、街の様子を高橋一生の視点で長回しで映す場面は当時の様子と雰囲気が感じ取れます。
また、美術セットの作り込みが素晴らしいです。
高橋一生の会社にある倉庫にある小道具や、軍の施設にある尋問部屋等は物凄くリアルで、黒沢清独特の少し不気味な雰囲気とNHK作品のリッチさが丁度よく合った気がします。

この作品、照明をかなり明るくしているので、そこはドラマっぽい映像だと思ったのですが、最後まで観ると当時のモノクロのフィルム映画を彷彿とさせたかったのかもしれません。
照明の明るさを逆手に人物の心情の陰りを見せる意図でやっていたのだとしたら「お見事です!」
この作品では劇中で小型の映画フィルムが出て来て、それがかなり重要なものになってきます。
そのフィルムに映し出されてる映像の白い部分が逆に不気味な
雰囲気を醸し出していました。

スリラー要素も好きです。
今回は「CURE」を彷彿とさせる所だけでなく、濱口竜介が脚本として参加してるだけに「寝ても覚めても」の二人の関係性を思わせる、平穏だけどどこか不穏さを感じる要素がありました。

キャスト陣も悪くないです。
特に東出昌大演じる軍人は、彼の"棒演技"が逆に人物に異質な不気味さを醸し出していました。


内容は満州の「731部隊」という当時の太平洋戦争における日本軍最大のタブーとも言える話題を扱ってるだけに、攻めた内容に驚きましたし悪くないと思います。


けど個人的には聡子が怖い...というかヤンデレに近い行動に「う~ん...」となりました
個人的にストーリーの展開は「スパイ」の嫌疑がかけられた高橋一生の妻の行動を描いていて、最初は高橋一生が謎めいた人物のように思えますが、途中からその蒼井優演じる聡子の行動の方が怖くなります。
彼女は公衆の面前でも夫にハグをしてしまうくらい夫に愛がある...というか愛が重いです。
そして、彼女が起こす行動も、彼女なりの夫への愛ゆえなのは理解出来ても正直ドン引きしてしました。
なので、この聡子の存在が自分はこの映画から少し気持ちを離してしまいました。

そして、個人的にラストのストーリー展開も読めてしまった上に強い印象が残らなくてそこまで強く心に残らなかったです。
「731部隊」という扱いづらくて危うい題材を扱っておきながら、ストーリーとしてはそんなに衝撃を感じない所に少しガッカリしています。


映像面では非常にシャープな作りになっていて綺麗なので、観ている分には美しいと思えて退屈はしません。
なので、黒沢清がこの作品で賞を獲れたのはそういう所かなと思うのですが、いかんせん色々な所でそんなにずば抜けて無い上に好きじゃない所も目立ってしまって、言うほど好きになれませんでした。