幽斎

アーカイヴの幽斎のレビュー・感想・評価

アーカイヴ(2020年製作の映画)
4.4
「イギリスのSF」と聞いて察しの良い方はイメージ通りに納得するだろう。意外とハリウッドと英国の違いが、一番ハッキリするのはSF。サイエンスに対する感受性がルーツは同じ民族でも大きく異なる。未体験ゾーンの映画たち2021、京阪の緊急事態宣言が解除され(鑑賞当時)、久し振りにシネ・リーブル梅田にて鑑賞。

イギリス、私が映画で一番好きな国。最近は尖った作品も多くジャンルを問わずハズレも少ない。英国はシェークスピアの国、映画よりも演劇が格上と思う無二の存在。故に起承転結やフォーマットに煩く、だからこそ規格外は漏れなく傑作が多い。ミステリー発祥の地らしく、監督より映像作家と形容した方がしっくり来る。私の生涯2位作品「悪の法則」Sir Ridley Scott監督を筆頭に秀才を数多く輩出、Christopher Nolan、Sam Mendes、人材には事欠かない。そしてまた1人、新たな才能が登場。

レビューを書いてる時、劇場は「シン・エヴァンゲリオン」で埋め尽くされた。私は漫画アニメは見ない、ポリシーが有る訳では無く、単に接点が無かっただけ。レビューを書く為、2度目はアニメに詳しい友人と観たが、彼は開口一番「これは攻殻機動隊やな」。特に第3形態は押井守監督「GHOST IN THE SHELL」そっくりやと。攻殻機動隊は人間の記憶が魂を生むのか?。魂を「ゴースト」と呼び、人間と機械を彷徨う「意識」をテーマに掲げた。ハリウッドのクリエーター誰もが日本のアニメに影響を受けた事を隠さない。

ハリウッド版「ゴースト・イン・ザ・シェル」を見た違和感、攻殻機動隊ってメロドラマチック?と喉に小骨が刺さる。友人に確かめると「それは『イノセンス』とゴッチャにしてんな」ん?意味分らん"笑"。本作の重要なプロットは「愛した人」ですが、オリジナルの攻殻機動隊をリスペクトしてる点を随所に感じたらしい。ロボットに愛情を感じる作品はDouglas Trumbull監督の傑作「サイレント・ランニング」が有名。アメリカ人には描けないモーメントを日英で共有。J(Japan)02の家政婦は見た!シーンも必見。

David Bowieの息子Duncan Jones監督「月に囚われた男」アートディレクターを務めたGavin Rothery監督長編デビュー作。映画だけでなくプレイステーションのゲーム美術など幅広く活躍したが、脚本をイギリスのプロデューサーに送りレビュー済「スカイライン 逆襲」Richard Goldbergの目に留まり映画化。「月に囚われた男」もイギリスらしい静かな語り口の傑作SFスリラーだが、コンセプチュアルとして申し分なく、ハリウッドのハイテク満艦飾を排除したヴィジュアルは一見の価値アリ。週一で食べに行く京都の誇り「天一」が登場した時は驚いたが、主人公の車も私と同じ(ロータス・エスプリ)っぽくて誇らしかった"笑"。

主演「バグダッド・スキャンダル」Theo Jamesが中々の存在感、お相手は超問題作「ニンフォマニアック」Stacy Martin、相変わらずお綺麗で。「スカイライン逆襲」繋がりでRhona Mitra、新三大鬱映画「ミスト」Toby Jonesと、個性的なキャスティングが揃う。プロットはW.W.Jacobs著「猿の手」に代表されるオカルト・スリラーが元ネタと思われるが、それをホラー的な解釈で創られたのがStephen King原作レビュー済「ペット・セメタリー」。本作は死者を復活させる禁断のプラクティスを描く。イギリスらしく人物の内面にフォーカスした演出は、派手さは無いが戯曲の様な雰囲気に満たされてる。

同じイギリス由来のSFと言えば「エクス・マキナ」大枠でテーマは同じと言ってよい。エクス・マキナには結末が4通り有って、未見の方は此処で目を閉じて欲しいが"笑"、人間に対して最後は従順なAパターン。人類に反逆するBパターン、自我に目覚めるCパターン。実はエクス・マキナは・・・Dパターン。どれが採用されたかはご覧頂くとして、監督が描きたいパターンは、ユニバーサルに却下され皮肉な事にアカデミー脚本賞にノミニーされた。

本作は監督の描きたいエッセンスを抽出される事無く完結。監督は「月に囚われた男」で使用した中華製パソコンが故障、バックアップのもう一台の中華製もクラッシュ、絶望の気持ちが大事な人を亡くした感情に似てる事から本作の着想を得たとインタビューで語った。月に囚われた男等のアーカイブが全て失われ、失意のどん底の中で作られた。

誰もが思うのは「何でヤマナシ?」。イギリスでは監督のイメージする「渓谷」のロケ地が見つからず「スカイライン 逆襲」プロデューサーの仲立でハンガリーの冬山でのロケが決まり大喜び。現地で資金も調達して製作国に追加。増資されたファイナンスで、日本の天一パブが追加に。元の設定は月に囚われた男と同じく基地から一歩も出ないシナリオ。そして監督が大好きな日本の映像の中からハンガリーのロケ地に「似てる」山梨を選んだとか。う~ん"笑"。

山梨も含めた伏線が回収されるロジックが秀逸。硬派なSFの纏いを脱ぎ捨てるラストで、ピントのズレた日本の理由も解き明かされる。ミステリーに免疫の有る方なら開始5分で結末は看破できるが、簡単過ぎて自慢には為らない。案の定、本作はアメリカでの評価が異様に低い。それは結末に対する死生観が邪魔するから。そう思えば「エクス・マキナ」が本当に描きたかった事をGarland監督に代わって新人監督が成し遂げた気もした。「Ex Machina」本当の意味と映画は有って無いからだ。イギリス映画は侮れない、そして貴方は何時も奥深い。

ミステリーのヒントは「モノクロ」男と女の愛に対する考察へと誘うSFスリラーの傑作。
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