GodSpeed楓

コリアタウン殺人事件のGodSpeed楓のレビュー・感想・評価

コリアタウン殺人事件(2020年製作の映画)
3.5
監督:わからない
出演:わからない

なんとも不気味な映画だ。

一時期、腐るほど大量のゴミを生産しまくった「POV」「モキュメンタリー」という撮影手法に則った作品ではあるのだが、本作のそれは"映画としては"稚拙極まりなく、誰かに見せるための出来にはなっていない。しかし、それが本来の"モキュメンタリーらしさ"を強調しており、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」を初めて観たときの恐怖を2020年代になって味わえるという作品になっている。

近所で起こった殺人事件を好奇心から調査を始めた男性の視点で話が進むのだが、こいつが明らかに捜査にのめり込みすぎて、頭がおかしい奴にしか見えない。インタビューという名の撮影された人も「なんやコイツ」という顔で対応しているので、そちらに非常に感情移入できる。(とはいえ、好奇心で殺人事件を個人的に調べてますって奴がカメラ持って話しかけてきたら、警戒するのは当然である)

基本的には退屈な映画だ。それでも眠気と戦いながら序盤を乗り越えてほしい。頑張るだけの価値が本作にはある。

上述した通り撮影者は、頭がおかしい暇人のそれなので、発言に説得力が感じられない。それどころか夢で見た話を「こりゃ自分へのメッセージやで!」などと言い出したり、落書きを見つけても「こりゃ自分へのメッセージやで!」と言い出す。全ての出来事が"彼の中でだけ"リンクし始めるのだ。何せ、観てる側からすればイカれ発言にしか聞こえないのだから、我々も「はいはい笑」という感想しか生まれないのは当然の帰結である。

ここから、"現実の方"が"彼に"追い付き始める…。

不穏に次ぐ不穏。意味不明な会話や出来事。もはやオカルトじみているのだが、どうにも「ありえねぇ」と言い難いというか、もはや映像として映っている中で、何が本当なのかすら分からなくなってくるのだ。

「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」が成功した理由に、"情報の少なさ"が真っ先に挙げられる。当時は現在ほどインターネットは普及しておらず、あれが虚構であるという事実を隠蔽することが容易かったために、"まるで本当にあった出来事"のように視聴者を騙す事に成功したのである。本作も現在は非常に情報が少なく、何が正解なのかが確認しようが無い。ド下手な手振れカメラも、リアルさを増す要因として非常に役立っている。

これこそが「モキュメンタリー」が目指すべき形であり、観た自分だけの価値観で事実か虚構か考えることが出来る作品である。

オカルト?
ホラー?
ミステリー?
それとも、ノンフィクション?

観た人だけが迷う袋小路だ。

ネタバレや、野暮な指摘が溢れる前に観ることを強くオススメする。もしこれが虚構なのであれば、是非「まんまとしてやられた」という感覚を味わう方が、お得である。

もしかしたら、今しか楽しめないかもしれない。
GodSpeed楓

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