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ノマドランドのkoyaのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.5
大人の映画というより高齢者の映画かもしれません。
いわば老人映画。
若い人にはまだまだ分からない老年の苦しみを描いた映画。

もし私が学生とか若かったら、わからない映画だったのかもしれません。
ただ、私はもう主人公のファーンまではいかないけれど年は年。
働き続けることが当然というより、まだ、働くのかとつい思う日々。

ノマド(放浪民)は、ヴァンでもってアメリカ西部を中心に移動しながら車中生活をする人々の事で、高齢者が多い。

安定した生活を捨てて、放浪の生活を選ぶのはただ自由でいたいからではなくて、一定の場所にいられないからという苦しい選択があると思います。
皆、口にはしないけれど、きれいとは言えないヴァンで短期の仕事をして金を稼ぎながら移動し続ける。

自由と孤独は背中合わせで、自由と自己責任も背中合わせです。
一人で自由にしたかったら、自己管理は自分一人できちんとやらないといけない。

タイヤがパンクしてしまったファーンが同じノマド女性から、「ノマドになるなら最低限抑えておかなければならないこと」と厳しい事を言われるように車の調子が悪くなったら?または、身体の調子が悪くなったら?
最悪、もし一人の時に死んでしまったら?

孤独死をまるで穢れのように言う人には、ノマドが理解できないと思います。ノマドである以上避けられないのは孤独死です。
それが嫌ならいわゆる普通の生活を送るべきでしょう。

ファーンは誰の世話にもなりたくない、と頑なに思っている。
ときどき、家に泊めてもらうことがあっても部屋のベッドは居心地が悪くて、庭にとめてあるヴァンにわざわざ寝に行ったりします。

ファーン達ノマドと普通の家に暮らす人々の間には信じられないくらい深い溝があって、決してお互いを理解することはない、と思う。
人には言わない過去をたくさん背負った高齢者ならなおさら。
そして、そんなファーンを一番理解していないのが姉という身内である、というのが身に沁みました。
過去を知っているだけに、責める言葉も辛辣です。

ファーンがつい、不動産業界の人に「貯金して借金をさせてまで家を買わせることに何の意味がある?」と聞いてしまうように、ノマドにとって不動産ほど無意味なものはないのです。

そして、ノマドは移動しながらコミュニティを作り、物々交換をしたりしています。人とのつながりも深くならない程度に慎重につきあう。

大きなヴァンで、広大なアメリカならではの風景の中でしか生きられないノマドたち。
アリゾナやネヴァダといった広大な所を車で移動しながら生活するリアルさ、食事、排泄、シャワーといった日常生活などのリアルさから、自然の中で息ができる束の間の幸福感と肩身の狭さ。

子供にはできない大人ならではのノマド。
若ければまだやり直しができるかもしれないけれど、高齢者のノマドに残されたものは車一台と自分という身体のみ。

生きる、というのはどういうことか。
そんなシンプルな問いにずっと向き合っている映画。
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