Kaoru

ノマドランドのKaoruのレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.2
美人な人が女優になれるわけではなく、
可愛い人が女優になれるわけではなく、
若い人が女優になれるわけでもなく。
フランシス・マクドーマンドを見て思うのは、モノホンの女優さんってのは内面に何かを魅せて惹きつける人のことを言うのだなぁと。この作品を観たほとんどの方がきっと少したりとも彼女から目が離せなかったのではなかろうかと思ったわ。

いろんなことを感じて、考えさせる映画。解釈や理解は人それぞれで、作者はそれを何一つ強制していない。なんて静かで激しい作品なのでしょう。しばらくこの作品に心を囚われてしまいそう。

まず先に私たちが知らなきゃいけないこととして、スワンキーやリンダ・メイ、YouTuberのボブは全て本物のノマド民で実名出演をしているということ。スワンキーが話していた旅の話は実際に彼女が体感した感動をそのまま伝えていて、今もみなさん元気にノマド民をされているのだとか。アメリカって国は嫌いなところもいっぱいあるけれど、ノマドの人々を社会的に受け入れているところはすんごく素晴らしいと思ったわ。
ノマドとは古い言葉だけれども、現代では、ワーキャンパーと呼ぶのだとか。ワーキングキャンパーの略で、労働や車を止めるところを求めて旅をしている人々が多いのですって。実際、超ド田舎に倉庫をたくさん持ってるAmazonなんかの貴重な労働力になってるのですって。

Houseは物質的な住居のことで
Homeは心の拠り所とするモノ,コト,場所ってところかしらね。
亡き夫を想っているときは心の中に暖かいHomeがあって2人がそこに宿ってる。だからHouseがないと言われることになんとも思わないのに、Homeがないと言われると腹も立つ。
みんなが車中生活を心配するのだけれども、本人はこの選択に誇りを持っているってところがとてもいい。崇高な人生だなぁと思った。

だけれども、持ち歩けるモノには限りがあるから思い出の品や過去のトロフィーを全て車に積むことはできない。結局のところ車を止める場所や働き口あっての生活なのは、定住者と何も変わらない。自由そうに見えてもちろん不便なところもたくさんある。
何かに書いてあった「どこにも行けるけれど、どこにも行けない」ってのがノマドなのではなかろうか。

そしてアタシ的には物質主義に対する皮肉もこめられた作品にも感じたわ。きっとこれが彼らではなく、現代に生きる若い子らだったら、インスタ映えするところを目指して旅をして写真を撮って…ってなるのでしょうけれど、本当の思い出というのは写真に残せるほど平たいものではないのではないかなぁと。
ファーンは最初、旦那との思い出の品、父親から譲り受けたアンティークの皿など、モノに宿る思い出を信じていたのだろうけれど、最後には倉庫の荷物を処分してしまう。思い出はモノではなく心に宿るものだと分かったからで、モノから解放された彼女は晴れやかにも感じる。工場や家に再び訪れたときに朽ちていたように、モノは朽ちるものだけれど、心の中の思い出はいつまでも美しいからねー。この気持ちすんごいわかる。
そして、ボブの言うように「どうせまた会える」って言葉にもファーンは癒されたんだと思うわ。

アタシにはこんな生活はできないわ。
だけれどもファーンの妹が言っていたように、自立して生きる彼女らの人生をとっても尊敬するわ。ものすんごく生きるエネルギーをもらった作品だった!!
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