Jun55

ノマドランドのJun55のレビュー・感想・評価

ノマドランド(2020年製作の映画)
4.4
とても新鮮味のある映画だったし、アメリカのユニークな側面をうまく引き出した作品だといえる。
監督が中国人で、”外から”アメリカを捉えたところが、その新鮮さを引き出せたのかもしれないし、また、中国人というノマド的な大陸人が描いたからかもしれない。

本作品は、2017年出版のベストセラーになったルポルタージュの映画化。
2008年の金融恐慌を契機に住居を持たない人々が現れる。ノマドの生活は不動産神話と真逆のライフスタイルともいえる。
行き過ぎた資本主義への反発、その反動ともいえる自然との共存、回帰。経済的な成功よりも、幸福を得る生活、、、日本でも若い人も含めて、移住生活を楽しむ人が増えていることも、一種のノマドランド的現象なのかもしれない。

米国は大国で、豊かな国と言われる一方、Safety Netが脆弱で、社会保障制度を”社会主義”とレッテルを貼り否定する社会。
アマゾンが登場すれば、政治的な側面がクローズアップされる。
ただ、原作とは異なり、この映画は政治的なところを感じさせない点に特徴があるといえる。

アメリカが移民の国で、ゴーウエストもそうだけれども、国民の中にノマド的なDNAがあるのだろう。
確かに経済的に苦境から逃れてノマドになることもある、ただ、この主人公を通じて映し出されることは、そのような負の部分ではなく、自由な世界に解放されることで、自分の視野が大きく広がる、というポジティブな捉え方。
主人公は、過去を顧みることを止め、安定した定住の生活を拒否し、最後にはこれまで見てきた景色が異なって見えることに気づく。

この映画のもうひとつの見どころは、その映像の美しさ。
大自然をバックに流れる音楽も効果的だ。

この映画を見て、多くの人が自分の将来のことを立ち止まって考えるのだろう。
自分の意志で自由に生きる生活への憧れは誰しも持つもの。ノマドランドに登場する人々のように、それはリタイヤする時に到来するのかもしれない。

この映画にも出てくるような実際のノマドがYouTuberとして登場しているケースが幾つかあり、映画・原作のノマドランドについて語っているのを見るのも面白い。
なるほど、と思ったことが、ノマドランドがテクノロジーの進化とコロナで大きく変わったということ。
自宅勤務が一般的になったことからも、ノマドの生活が”特殊”なものではなくなり、経済的にもやり繰りできる環境になってきた。
それは、原作が前提としていた時代と大きく環境が変わってきている、詰まり、この原作で触れられているノマドのネガティブな部分(経済的な苦境等)が、昨今では減じている、という事実があるということ。
Jun55

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