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AWAKEのドントのレビュー・感想・評価

AWAKE(2019年製作の映画)
4.1
 2019年。タイトル通りに目の覚めるような作品であり、まったく大変によろしいものを見せてもらった。小学生の時、同期として将棋の世界に入った清田と浅川。時を経て浅川は若手棋士の俊英として頭角を現し、挫折した清田は大学へ。しかし清田は出会う。「コンピューター将棋」に──
 本作は将棋がわからなくても面白い。将棋がわからない私が言うのだから間違いない。この映画はふたりの男の挫折や葛藤や苦悩を、将棋そのものではなく、長ったらしい台詞でもなく、表情と動きによって余すところなく伝えてくれる。それはまったく映像によってのみ出来ることであり、言葉で説明するよりも深く濃く、陰影に富んだものを心に残す。
 駄目な映画にありがちな心境絶叫とか号泣半狂乱とかそういうのはない(取り乱すシーンはあるが話の流れとして必然である)。物語は静かに決然と人間たちの表情を映し、目を映し、指を映す。その目線の、口元の、指の震えの、さらに「あえて顔を映さない」ことの、いかに雄弁なことか。
 上記のようなあらすじであるならば当然ながら「リベンジもの」としての痛快な物語を想像するであろう。しかしブイブイ言わせてる若手棋士・浅川は悪役や「壁」としての存在ではない。転び、壁にぶつかり、苦しむ一人の人間として綾なしながら描かれていく。清田と浅川、双方が一進一退の形で物語は進む。その妙。実にスリリングで、リアルな手掴みで、素晴らしく面白い。
 清田役の吉沢亮と浅川役の若葉竜也の抑制されつつも雄弁な演技は驚異的であり、控えめに言って超すごい。吉沢亮はアジアに誇る「死んだ目」を駆使しながらねちっこいアプローチで陰キャを生き生きと(?)演じている。若葉竜也はもうなんというか佇まいも振る舞いも全てが棋士にしか見えない。Eテレの日曜お昼に出ているのを観た気がする。いや出てたな。観たぞ俺は。
 AI研の先輩の落合モトキ、棋士会館のいっつも眉間に皺の寄ってる先生ほか脇役も本当によい味を出していて、ちょっと甘い所もあるけど撮影や演出も彼らの演技の旨味を存分に引き出している。簡単な結末には導かれない脚本(事実に着想は得ているがあらかたフィクションである)も甘露で、いや邦画、マジ捨てたもんじゃあないッスよという気持ちにさせられた。
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