期待通りに面白かった。それは事実。
ただね。これは自分勝手で贅沢な気持ちなんだが、「期待を軽々超えてくる」ことも期待してたわけさ。
だから、ほぼすべて想定範囲内で、「おーっ、そう来たか~!」ってのはなかった。
予告篇観た瞬間から、「これは『転校生』×スラッシャー映画というジャンル・ミックス・コメディだ!」って、そのどちらもわが青春の80年代に体験してきた身としては、やっぱ期待値が高まったですよ。
かつ、この製作陣では、同じくジャンル・ミックスの「タイムループもの×スラッシャー映画」(続篇はさらにSFもか)が大傑作だったものね。
とはいえ、劇場で観る価値は十分にある娯楽作品です。
もう、安定のユニバーサル×ブラムハウス×クリストファー・ランドンですから。
今回は自分のレビューとしては珍しく、皆さんのレビューを読んでから書いてます。
そしたら意外だったのが、「転校生」への言及が少ないのね。
配信されてないし、レンタルもないらしく、セルDVD買うしか観る方法がないので、若い人にはあまり観られてないのでしょう。その代わりに、やはり「君の名は。」は多くの方が引き合いに出されてる。
あと、リュック・ベッソンじゃないほうの「レオン」に言及なさってる方が僅か。
これ、馬鹿にして観たら傑作だった作品ですよ!
ただし、「クソすばらしいこの世界」は誰もほとんど指摘してらっしゃらない。
あれ、観た人少ないだろうからね。
実は、「『転校生』×スラッシャー映画」は、2013年にすでにこの「クソすばらしいこの世界」がやってるんですよ。
このジャンル・ミックスは、恐らくそれが嚆矢。
これはアメリカが舞台の、朝倉加葉子監督の日本映画。
なんと、「息もできない」のキム・コッピ主演ですよ!
そっちは、ちゃんと「二人が抱き合ってゴロゴロ。缶も転がる」という、「転校生」オマージュやってます。
本作で脚本も手掛けたランドンさんが「転校生」を知ってたかどうかは判らないけれど、本作には「女に入れ替わった男が呆然と鏡を見ながらおっぱいを鷲掴みにする」という、「転校生」以来必ず描写される例のシーンはありましたね。
「クソすばらしいこの世界」は大好きな作品なんだけれど、作劇上逃げてるところがあって、それは「入れ替わったあと、片方しか活躍しない」という点なのです。たしかに、両方描くとかなり面倒くさい。というか、作劇しづらい。
だから、こっちの予告篇を見た時には、「転校生」と同じく一夫と一美両方が活躍する物語だと判って、そこが「クソすばらしいこの世界」からのアップデートだとわくわくしたのです。
あと、「クソすばらしいこの世界」は「悪魔のいけにえ」設定だったので、「殺人鬼と被害者」以外の外界を描かなくてよかった。それが、本作ではちゃんとコミュニティの中での事件になってる。そこも「どう処理するんだ?」ととても興味が高まってたところ。
しかし、実際に本篇を見ると、不遜な言い方ですが、予告から考えた「私ならこう作る」を、超えてこなかったのです。
「コミュニティは大きいと関係性描写が厄介だから、小規模な田舎町。友達が協力者になる」
そう考えてたもんで、やっぱ予想通りじゃん! ってなっちゃいました。
あと第三幕の「時計」は、「メリポピ・リターンズ」と
一緒だったので、「ふっ...。やっぱりな」だったし。
でも、多分、本作は「『転校生』×スラッシャー映画」のまだほんの2作目(多分ね。知らんけど)。
ジャンル・ミックスって、いきなり大傑作が作られるパターンも多いけど、多くの挑戦者が繰り返し挑み続けて、次第にサブジャンルからジャンル映画になってくパターンも多いじゃん?
その意味では、「クソすばらしいこの世界」をきっちりアップグレードしてくれてたので、これからも多くの作り手に挑戦し続けてほしいサブジャンルのフォロアー映画として、存在価値は相当に高いと思います。
何と言っても、何度かレビューに書いた気がするけど、カイエ・デュ・シネマによって「作家主義」で捉えるのが常識になった映画という「芸術」を、それ以前の「製作会社のカラーとブランド」で観る「エンターテインメント」にルネッサンスしてくれてるジェイソン・ブラムさんは偉いですよ。
ネット情報検索しても「あのブラムハウスが贈る」なんて惹句が滅茶苦茶多いし。
(いや、私、作家主義史観も大好きなんですが、絶えて久しくなかった製作会社視点が復興してくるのも嬉しいじゃないですか。日本ではまだ「松竹っぽい」なんて言い方はできるけど、アメリカ映画にそういう視点はずいぶんなかったしね。あと、日本でも「ATGっぽい」って言い方すると表現しやすいケース、現代でもあるでしょ?)
いつもの如く、観終わって帰ってきて、酒を呷りながらのレビューなので一貫性がないし、ここまで書いて読み返すと、驚くほど本篇について書いてないよね。
だから、一個書き足そう。
本作の台詞で、最高に笑ったのは、映画における「本人特定」でよくある「本人しか知らないことを知っているか確認するための質問」とその答え。
「じゃあ、ミリー。あんたのいちばん好きな映画は?」
「みんなには『ショーシャンク』って言ってるけど、実は『ピッチ・パーフェクト2』なの!」
字幕では「ショーシャンク」が省略されてたけど、この台詞でミリーちゃん(っていうか、すでにヴィンス・ヴォーンの姿だけどね)のキャラクター造形がめちゃくちゃリアルに感じました。
「ラ・ジュテ」のレビューでも書いたけど、「表向きベスト映画を『ショーシャンク』って言うけど、実は別に裏ベストを持ってる」って、ある種の女の子のすごいリアリティですから!
それと、本作はホラー映画としては100分超えでしたね。
100分を超えるホラーは90分台のホラーに対して、主人公がトラウマを克服するというサイドストーリーを描く分長くなるわけだけれど、本作もそれで、そこも手堅かった。
最終的に家族全員がひとつになったしね。
とはいえ、その一方で、「あ~。それくらいのドラマは描けて当然の映画でしょうよ」と、冷静に見てる自分もいたり。
これ、あれだ! ピクサーの「最高とは呼べない作品」を観る時と同じ感覚だ。
つまり、ブラムハウスはもはやピクサー並みに期待値をあげて観るプロダクションってことなんだ。
やっぱブラムハウス作品、侮りがたし!