滝和也

らせん階段の滝和也のレビュー・感想・評価

らせん階段(1946年製作の映画)
3.9
ある田舎町に起こる
異常殺人。
体に障害のある女性
だけが襲われる…。

シチュエーション・スリラー
の原点であり傑作!

「らせん階段」

とある街で足の悪い使用人の女性が殺された…。口のきけないエレンはその殺人現場の真下で無声映画を見ていた。嵐が近づく中、同じく使用人だった彼女はお屋敷に戻ろうとする。その背後から怪しげな影が…。

モノクロフィルムの光と影を最大限に活かした撮影とトーキーであることを活かした音による、恐怖を煽る演出。嵐による雷鳴、ドアを叩く風、雷光に映し出される人影、淡い蝋燭に浮き上がる表情と生臭い血を見せずとも恐怖を煽るお手本の様だ。らせん階段に象徴されるカットもまた印象的だ…。

そして限定された空間と状況。上記したストーリーの序盤以降、全てが広い旧家の屋敷内でストーリーは進む。嵐の夜のため、それ以外は出てこない。また口のきけない主人公は助けすら呼べない。何かあっても交換士と会話しなければならない電話すらできない。悲鳴すらあげられないのだ。そのもどかしさたるや、並ではない。

また限定された空間であるにも関わらず、犯人は印象的な目のアップのカットのみであるが故、最後までわからない。やや豪快なミスリードを誘発する演出のきらいはあるものの、確定までは中々できないため、フーダニットとしての側面も持つ。

僅か85分程のストーリーだが、技巧の粋を集めた作品の監督はロバート・シオドマク。フリッツ・ラングと同じくドイツからの亡命組。カリガリ博士に始まる映画大国であったドイツのホラー的な技巧を使い、ラングのMと同じく異常殺人犯を描き出した…。その手腕はホラーやサスペンススリラーに多くの影響を与えたはずだ。シチュエーション・スリラーとでも言うのだろうか。有名どころでは目の見えない女性が襲われるオードリー・ヘップバーンの暗くなるまで待って。最近では目を開けると死ぬとか声を出したら襲われると言う作品が目白押し(笑)だ…。無論スラッシャー系ホラーも始祖にはなるだろう。

クラシックにはシンプルだが原点を見ることがあり、やはりそれも楽しみだ…。あくまで個人の感想だが、興味のある方は是非!
滝和也

滝和也