keith中村

オクトパスの神秘: 海の賢者は語るのkeith中村のレビュー・感想・評価

4.5
 どっひゃあ。これは物凄く変化球に見えて、実は直球ストレートのラブストーリーだわ!
 原題は"My Octopus Teacher"だけど、どう考えても"Octopus, My Love"が似つかわしい。
 
 ある意味、リンゴ・スターの「タコさんの庭に行ってみた~いな~」という歌詞を体現しちゃった作品とも言える。
 まあ、ビートルズは"HIS octopus's garden"なんで性別が違うんだけれど。
 
 「人」に密着するドキュメンタリー映画は、「とても凄い人」を撮ったものと、「ちょっとどうかしてる人」を撮ったものに二分できる。
 前者には、たとえばミュージシャン密着ドキュメンタリーが山ほどある。
 後者は、原監督で言えば、「ゆきゆきて、神軍」や「全身小説家」。佐村河内さん密着の「FAKE」に、海外では「アクト・オブ・キリング」や「イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ」もそう。
 「ホドロフスキーのDUNE」もこっちに入れてもいいと思うし、「アンヴィル!」はミュージシャン密着ドキュメンタリーなのに後者というレア物件だった。
 
 で、本作は後者の「ちょっとどうかしてる人」物件。
 だから、最初は「何だ、この人は」と思って観てるし、ケラケラ笑っちゃったりするんだけれど、最終的にはきっちり泣かされてました。
 これね。ラブストーリーという意味で、いちばん似てると思うのは、ジョン・キャメロン・ミッチェルの「パーティで女の子に話しかけるには」ですわ。
 でしょ? ラストで次の世代に邂逅するところも含めて。
 
 あと、ライフサイクルが全然異なる種族同士の恋愛としては、一部のヴァンパイアものや「アデライン」、それに手塚先生の「火の鳥」あたりも連想したり。
 タコ子にしてみりゃあ、神のような超越的存在と触れ合った、かけがえのない人生だったんだろうな。
 「神」のほうもタコ子に惚れてたわけだし。こんな祝福された関係性は滅多にない。
 
 クレイグさんが「神」でありながら、たとえばタコ子が鮫に襲われてるときにも敢えて介在しないという掟を課して煩悶するところは、我々映画の観客との相似形になっていて、ここがまた映画ファンとしては堪らないところでした。
 じゃないですか、みなさん?
 私は神が実在すると仮定した場合、それは映画の観客と同じようなものじゃないかと思うのですよ。
 つまり、「視点」としては全能なものを持っている。しかし、物語には一切関与できなくって、それでも登場する人物たちにはずっと心を寄り添わせて、一緒に笑ったり悲しんだりできる存在。
 だから、神ってただただ無慈悲であるが故に沈黙し続けてるわけじゃないと思うのね。
 ほんとはどれだけ関与したいことか。でもできない。時間や空間や次元が違うからできないのね。そこが映画ファンと同じ。
 でもさ、人間にしてみりゃ、「あぁ、そうですか! 分かりました。これだけ祈ってるのに沈黙ですかい?! 私ゃグレてやりますよ!」ってなって、丹波哲郎やリーアム兄さんが沢野忠庵になっちゃたりするわけさ。
 ま、その意味ではクレイグさんの立場は「関与できる神」も選択できたわけで、そこがちょっとサイコパスというかサディスッテックにも感じちゃったんだけど。やっぱ「どうかしてる人」だな、この人。
 
 それにしても、最近はこういったドキュメンタリー映画が日本でも数多く観られるようになったのは有難いことです。
 昔はオスカー受賞作でも、ドキュメンタリー映画はほとんど観られなかったもの。
 というか、逆か。NETFLIXオリジナルの質が高いので、オスカーを獲ることが多く、だから観られるんだな。
 やっぱネトフリ、凄いな。今日もまた、ありがとうございました。
 
 ちなみに、アカデミーの長編ドキュメンタリー映画賞が始まったのは1942年の第15回から。
 では私はどこから観てるんだろうと調べたら、何とその30年近くも後の1970年「ウッドストック」までは一作も観てませんでした。というか、ほとんどは日本公開されてないので、観る方法がないものばかり。
 オスカーに拘わらず、観たことがあるいちばん古いドキュメンタリーはキャプラの戦意高揚反日映画「汝の敵 日本を知れ」かな。「ドキュメンタリー(?)」な映画だけれど。
 あ、思い出した。国立映画アーカイブで「日本南極探検(1912)」観たっけ。こっちのが遥かに古い。
(つーか、工場の出口とかラ・シオタ駅あたりはそもそもドキュメンタリー映画ですね)
 
 「ウッドストック」がオスカーを獲った年には、ビートルズのドキュメンタリーにして最後の映画「レット・イット・ビー」も公開されてますね。
 あの作品の「ゲットバック・セッション」では、冒頭に書いた「タコさんの庭に行ってみた~いな~」はまだ歌詞が出来てなくて、リンゴがピアノでコード進行を考えてるところだけ写ってました。
 
 関係ないけど、タコといえば「007/オクトパシー」。
 1983年の作品ですが、同じ年には日本のドキュメンタリー映画としては傑作「東京裁判」があるじゃないですか!
 あれも「ちょっとどうかしてる人」がそこそこいっぱい出てる作品でした。
 白眉は何といっても梅毒でどうかしちゃった大川周明が東条英機の頭をハタくシーンですね。
 
 と、相変わらず迷走するレビューを「タコ→東条英機のハゲ頭」で締めてみたけども、全然上手くないわ! このタコが!