ひろぽん

映画 太陽の子のひろぽんのレビュー・感想・評価

映画 太陽の子(2021年製作の映画)
2.4
太平洋戦争末期を舞台に、極秘裏に日本の原爆開発に携わった若き科学者たちが時代に翻弄されていく姿を描いた青春群像劇。

2020年にテレビ放送されたNHKドラマ『 太陽の子』を再構成した映画版。


太平洋戦争末期。京都大学の物理学研究室で原子の核分裂について研究する修は、海軍から命じられた核エネルギーを使った新型爆弾開発のための実験に勤しんでいた。そんな中、家を失った幼なじみ・世津が彼の家に居候することになる。さらに、修の弟である裕之が戦地から一時帰宅をする。一方、原爆の実験は滞り、研究室の空気は次第に重くなっていく。そして彼らが研究に疑問を持ち始める中、広島に原子爆弾が落とされたという知らせがもたらされる。その現実を目の当たりにして、彼らは何を思うのかというお話。

原爆の被爆国として知られている日本でも、太平洋戦争末期に実際に原爆開発をしていたという事実を元に作られたフィクション作品。

当時の日本に資源や資金があれば、原爆開発を成功させ投下する側になっていた可能性もあったというのだから興味深い題材である。

戦争に行く兵士やその家族が主人公ではなく、原子力を研究する科学者が主人公という設定であり、戦争映画にしては着目する視点が斬新で面白いと思った。

科学者視点のため、戦場での緊迫感や空襲から逃げるなどの緊迫した描写が一切ない。そのため、研究者だからという理由で戦地に赴く事がなく免除された男たちの葛藤が描かれる。

ひたすら計算と実験を繰り返す日々。思うような成果が得られず毎日戦争で死にゆく仲間の事を考えると、自分たちは一体何をしているのかと、苦悩や葛藤に苛まれる。彼らもまた違った形でアメリカと戦争をしているのだと気付かされた。

戦況が悪化するなか、学生の修は一人の科学者として原爆の開発に取り憑かれていく。修の探求は、戦争とは切り離されており、ただ物理科学の世界に魅力され、興味本位で楽しそうに実験しているように映った。

そんな彼が、原爆が落とされた広島の悲惨さを目の当たりにしたことで、残酷な現実に気がついていく。ただ、ひたすら打ち込んでいたものが、実はとんでもない悲惨な現実をもたらすものだと知るところから、頭の中で色々考えていく姿が良かった。

科学に夢中な兄・修、戦争から休暇で帰ってきた弟・裕之、その2人の兄弟を支える幼なじみの世津。3人の思いや価値観、振る舞いが三者三様で、それぞれ違う形で戦争に向き合っていた。

日本だけでなくどこの国も原爆の開発に着手していたんだな。どこの国よりも早く開発した国が世界を征服する。そんな時代だったんだと思うと恐ろしい。

手に収まらないくらいの特大おにぎりをほうばるシーンが印象的だった。

「お国のために」という大義名分で戦争に行って「死ぬな」とは言えない時代。空襲で被害を拡大させないようにと家を壊されたり、戦争で家族を亡くしたり、洗脳され死生観がねじ曲げられたりと、戦争のもたらしたものは本当に残酷なものでしかない。

核爆弾の研究を引き受けたことで優秀な研究者や学生を徴兵させずに守ろうとした荒勝教授の行動は一理あるなと思った。調べたところによると荒勝教授は実在した人物で、原子力の研究を行っていた人みたいだ。

出演シーンが少ないが三浦春馬の演技力の高さが際立つシーンがいくつもあった。戦争から帰ってきてからのほっとする表情、笑顔とは裏腹に何か悩みを抱えている表情、早朝に1人で海で自殺をしようとするシーン、3人で未来を語り合う時の笑顔、母との別れ際での震えている様子etc.....

演技が上手な俳優が多く登場する中、圧倒的に田中裕子の母親役としての存在感と演技力の高さが際立っていた。母親として息子を戦場に送り出し見送る時の表情や、科学に没頭する修が京都に残って原爆の観測をすると言い張る時の会話のシーンの、母親としての重厚感と圧力が怖くなってしまうほど自然で素晴らしかった。

本来綺麗なはずの海でのシーンが色褪せた様にくすんでおり、それとは反対にラストの3人で海で戯れているシーンは綺麗な美しい色の海をしていた。戦時中の心境を表現しているのだろうなと思った。

意欲的に原爆を作り出そうとしていたのにも関わらず、その破壊力を目の当たりにして、自分たちが作ろうとしていたものの恐ろしさの善悪を学者たちに問うているのがこの作品のテーマなんだろうな。

良くも悪くも映画というよりはNHKのドラマを観ているような作品で、丁寧に描かれている。これといって大きなことは起こらないから盛り上がりどころも特にない。考えさせられることは多いが、あまり心に響くものではなかった。
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