so

ビリー・アイリッシュ 世界は少しぼやけているのsoのレビュー・感想・評価

4.0
ベッドルーム発グラミー賞行き、10年代最大のイリュージョン、ビリー・アイリッシュを堪能する140分。

まず、このドキュメンタリーにはスタジオが一切出て来ない。彼女と兄のフィニアスは二人が生まれ育った家で音楽制作をしているからである。殺風景なスタジオを延々と見せられる代わりに、二人が子供だった頃の身長が刻まれる家の柱や、彼女のド派手な衣装を洗濯機に投げ込む母親の映像が見れて楽しい。
そんな家族の歴史の染み付いた家で二人は日々曲を書いては録音しているのだが、そうして生まれる音楽の印象はとてもアットホームといえる様な温かいものではなく、むしろ真逆の冷たい印象の曲が多い。そのような音楽を生まれ育った家で兄と妹がどのように作っているのか。観る前からそんな謎に好奇心をそそられていたが、すぐにその謎は解けた。というか彼女の音楽を浅くしか聴けていなかった自分にとっての謎でしかなく、世界中の彼女のファンが魅了されている特別な1点に気づいていなかった。
とにかくビリー・アイリッシュの音楽には嘘がない。歌詞はもちろんだが、曲やサウンドについても他者が介入することで生まれる嘘が全くないのだ。家でしか作ることのできない純粋無垢な音楽。あの冷たさはむしろ嘘がないことから生まれる冷たさなのかもしれない。愛想笑いも虚飾もない。彼女が心の闇を書き綴ったノートも、飛び降りないですむようにあえて歌う「飛び降りる」という言葉も、全て彼女の切実な心の声だ。それらをその純度を保ったまま音楽にすることができるチームなんて家族以外に考えられない。彼女の声と心の声に寄り添って笑顔で曲を完成へと1歩1歩近づけていく兄フィニアスの姿に、その音楽の奇跡の様な成り立ちを垣間見ている様であった。

とにかくイケてる音楽で踊りたいだけの人にも冷たくクールな彼女の音楽は響くだろう。しかし同時にナイーヴな若者達は彼女の心からの囁きに涙する。
いつの時代も迷える一人の若者を救うのは同じく迷える一人の若者が生みだすポップ・ミュージックなのだ。
ツアー中、車で通り過ぎるビリー・アイリッシュに駆け寄り「Your music save my life!!」と叫ぶ女の子を見て、しみじみそう思った。
so

so