Oto

映画大好きポンポさんのOtoのレビュー・感想・評価

映画大好きポンポさん(2021年製作の映画)
4.0
映画・映像の関係者がこぞって絶賛していて、先輩からも「これはきみの映画だから絶対みて!」と勧められてみてきた。

「映画人の映画」はよくあるけど、大体は俳優や監督やファンにフォーカスを当てたものが多い(ニューシネマ、雨に唄えば、サンセット大通り、ワンスアポン、8 1/2…)。
だから「プロデューサーの映画」や「編集者の映画」ってあんまり見たことがなくて新鮮だった。アニメを題材にした『映像研〜』の映画ver.という感覚に近いかもしれない。映画をつくる情熱と狂気を真っ向から描いた作品。

映画を作る過程がすごくリアルに描かれていた。日常で見かける映画的な瞬間への感動、レジェンドからもらう言葉の重みと原動力、脚本の文章が芝居によって生命を宿すときのきらめき、この人を自分が撮りたいという活力、スタッフみんなで一つのシーンを作り上げる楽しさ、現場で偶発的に生まれるその時限りの奇跡、シーンを短くして成立させようとするときの苦悩と面白さ...。ぎっしりと書き込まれたノートにも見覚えがあった。

「目が死んでいる」ことを褒められるシーンがあったけど、たしかに映画を作る人って「映画を作る以外になにもない人」が多いような気がするし、それ以外に自分の想いを伝える術を持っていなかったということはよく聞くので、孤独や非社交性を肯定するものとして表現があるという救いの描き方はいいな〜と思った。予告編づくりにしても監督抜擢にしても締め切り前の編集にしても、「自分がやらないと大勢の人に迷惑がかかる」という強制力があって、クリエイターにとってこれは必須だと思う。純粋な「自主制作」ってやっぱり成功しないし、背伸びして入ったチームでの成功体験と過信が「職業」へと変わると思っている。

「君の映画のなかに、君はいるのか?」という言葉もあったけど、自分自身が大切なもの・失いたくないもの・願うもの・忘れたくないものを描くことが映画づくりの一番大きな動機になると思うし、アドバイスされていたように一番見てもらいたいと思うN=1に届ける手紙のつもりで描くことが多くの人に届く強度を作るのだと改めて思った。劇中の指揮者と彼自身の状況はそこまでリンクしているように感じられなかったけれど、多くの人の犠牲の上でしかなにかを作るということはできない。

知り合いのすごく優秀なプロデューサーが「映画は全然好きじゃない、商品としか見られなくなってしまった」と言っていたけど、ポンポさんにも似たようなものを感じて、彼女自身が売れる良作は量産できる一方で、心の底から感動できる何かにはまだ出会えていないというのがすごくいいゴールの設定だと思った。脚本を兼ねているところに少しずるさ(都合の良さ)を感じるけれど、監督至上主義だと思っていた自分がはじめて「プロデューサー」という仕事にカッコよさを感じた。序盤で「90分以上の映画は嫌い」と言っているのも終盤の編集に生きてきてるし、構成がうまい。

あとは、映画オリジナルキャラらしい銀行マンがすごく効いていた。社会人になってからの自分はどちらかと言うとこの人に一番共感できて、彼が本作を「映画好きだけの映画」にせずに世の中と接着させる役割を担っていたと思う。自分が一生懸命になれる何かがないことを社会のせいにして、恵まれた立場にいながらも不満を感じて過ごしている人。
そんな彼が何かに没頭する人の輝きに憧れて、力になるため・一緒に作り上げるために初めて本気になって、他の人を巻き込んだり、作る人の情熱を映像で表現したり、実は応援してくれている人の助けを借りたりする姿には、すごく勇気をもらえる。考えて/作って終わる仕事はなくて、だからこそ一人で作れるものなんてほとんどない。

ポンポさんへの土下座、再度集まったスタッフへの感謝、グッドバイブスからしかグッドアイデアは生まれないし、独裁的なリーダーは時代遅れになりつつある。オッドタクシーもそうだったけど、内向的な主人公像が人気を得てきているのも納得。

水面の反射を使ったショットの面白さ、機転を利かせてヤギを撮るシーン、楽屋のカット構成の変更...。ずっとアイデアが豊富だし、編集の格闘シーンも『バクマン』を連想させるアニメならではの表現になっていた。
ものすごい芝居を見て電撃が走るとかもそうだけど、「人智を超えた圧倒的な才能」を描くのに向いているのが漫画やアニメ。

クライマックスの女優の演出とかプレゼンシーンとか少しウェットすぎるかなと気になったりもしたけれど、大満足でおすすめの映画。また何度か見たい。

原作も読んでみたけど、予告編も流れは見せてないし、カット割りとか心象風景の演出とか全部1から考えたんだなぁとリスペクトが増した。

※時代設定、黄金期のハリウッドを彷彿とさせる街並みやスタジオになっていたけど、スマホが出てきたりとかイマイチつかめなかったな。
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