えいがうるふ

トゥルーノースのえいがうるふのレビュー・感想・評価

トゥルーノース(2020年製作の映画)
4.8
タイトルを聞いただけで、ああきっと想像以上なのだろうなという想像通りに凄惨を極める彼の国の政治犯強制収容所の話。90分強という短さで、これほどの強いインパクトで独裁国家の知られざる闇を告発した作品はなかなか無いと思う。
意図的に画像処理に粗さを残した3Dアニメで表現されているからまだなんとか正視に耐えるものの(脚本も若年層の視聴にもかなり慎重に配慮されていると思えた)、実際のその現場を経験した人々や脱北者へのインタビューを含む幅広く入念な取材をもとに再現されるその実態は、エンタメとして誇張された完全なフィクションであってほしいと思えるほど酷い。
まして我々日本人にとっては、それが過ぎ去った悲惨な時代の昔話ではなく、たった海一つを隔てた隣国で今も続く現実であり、決して他人事ではないことがジワリと伝わる描写も含まれていて、背中に冷たいものが流れるのを感じた。

唯一、作品を通し一点だけどうしても違和感が否めなかったのが、在日コリアン四世である監督が北朝鮮の内情を描いた作品でありながら、登場人物達が韓国語でも日本語でもなく英語をしゃべるということ。その土地の現地民ならではの感情はどうしてもその国の言葉でなければ表現出来ない面があるように思え、なぜ彼らの母国語で制作しなかったのだろうと疑問に思った。

疑問ついでに少し調べてみたら、実は劇場公開の洋画は字幕で観るのが当たり前になっている日本国内の配給事情の方がむしろ世界標準からすると特殊で、それが少ない文字数で多くを表現できる漢字表記が使えることや100%近い高い識字率など、多くのアドバンテージに支えられた相当恵まれている環境であることに気がついた。
つまりこの作品は最初から日本や韓国だけでなく全世界の全社会層の人々に観てもらう目的で制作されたからこそ、一番汎用性があり各言語への翻訳も容易な英語での制作となったのだろう。深く納得。

なお作品公式サイトも必見である。
https://true-north.jp/
特に清水ハン栄治監督のインタビューは非常に興味深い。曰く、フランクルの『夜と霧』からインスピレーションを得たというその脚本は、確かに人がどのように極限状態を生き抜くかという命題において痛ましくも通じるものがあり、またそれがダブルミーニングとしてこの作品のタイトルに込められていたことを知り、改めて感銘を受けた。
とにかく出来るだけ多くの人の目に触れて欲しい作品。