未島夏

ある人質 生還までの398日の未島夏のレビュー・感想・評価

ある人質 生還までの398日(2019年製作の映画)
3.8
※Filmarksオンライン試写会にて鑑賞



いつ命を落としてもおかしくない極限の状況下でも、人と人が関わる限りは営みがあり、営みがある限りは心の交流がそこに在る。

人質同士の連帯感から生まれる強い繋がりは、絶望と隣り合わせの中にも営みを見出し、過酷な状況下で唯一の光源となっていく。



紛争地帯の子供たちと、人質の一人であるジェームズの笑顔。

それを思い出す度、どんな場所にも日常が存在する尊さと残酷さを感じて、途方に暮れる。

笑顔で暮らす、そんな些細な事さえも、人としての尊厳を失わぬ為の武器となってしまう。

その事実を目の当たりにしても、理不尽な死に怯えず笑っていられる私達に大した事は出来ない。

せいぜい、粛々と今を無駄にしない様に過ごす程度。

本当にそうだろうか。



違う。もう一つだけ出来る事がある。

こういった現状を自らの意思で戦地に赴き伝えてくれるジャーナリストの方達へ、人間として敬意を持つ。

それはつまり、彼ら、彼女らが危険に晒される事を『自己責任だ』などと言って無下にする様なマネを、決してしないと言う事。

平和の中で生きる人間にとっての尊厳は、いかなる他者への思慮も忘れない事だ。

尊厳を失わぬように生きる。
それが今出来る最善の「祈り」だと信じるしかない。
未島夏

未島夏