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ドライブ・マイ・カーのrayconteのレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
1.0
旧型サーブが好きだ。
よく走るし、ほどよくコンパクトで、同乗を拒むかのような愛想のないデザインはまるで懐かない猫のようであり、動かなくなるまで愛でていたい愛おしさがある。
ただそれだけの理由で、トレーラーすら見ずにこの映画を観に行った。

タイトルに違わず、本編の半分以上サーブが走っている。
瀬戸内海の穏やかな景観と、孤独の象徴であるサーブがよく似合う。
そういう面では満足な作品だったが、肝心の内容はといえば、本当に丸3時間運転を続けたかのような徒労感に襲われる代物だった。

原作は、あの村上春樹。日本が世界に誇る、素人童貞エセアメリカンB級エログロギャグ作家だ。
ある時代の人々にとって、村上春樹とはキャビアやマルタンマルジェラと同じである。
中身の良し悪しは二の次で、それを知っている、理解していると主張することで文化的なリッチさを誇示できるブランド物なのだ。

今作はできるだけ村上の世界観を壊さぬよう作られている。
要は、やたらとベラベラ喋るわりに上辺だけの妙に芯を食わない会話が長々と続く。
監督の良心なのか、クライマックスにかけて短い助走と着地はあるものの、旧型の車を愛する物好き以外には耐え難い退屈のトンネルが延々と続く。
バーで丸氷と聞いたことねえウイスキーが入ったグラスを傾けつつ酒と自分に酔うインテリ気取りのジジイから、何もかもが嘘くさい自分語りを長々と聞かされているような気分になる3時間である。

脚色にもかなり問題がある。
大事なことを全部台詞で説明してしまっていて、映像化の意味を無化してしまっている。
それに村上春樹の台詞回しをそのまま役者に喋らせては、あのクドくキザな感じが無視できないくらい強調されてしまう。
撮影がいい仕事をしているだけに、かなりもったいない。もっと画の力を信じて、台詞はシンプルにした方がよかったんじゃないか。
別に原作が村上春樹だからって、村上口調にする必要なんかどこにもないだろ。

だが、三浦透子のアクトは本当に素晴らしかった。
無感情、無気力なようでいて、哀しみと希望の両方が宿るあの瞳の持つ魅力を、彼女は今作でいかんなく発揮している。
言葉がなくても通じる才能を持った素晴らしい俳優だ。

この映画、車で観に行くのがオススメだ。
内容はともかく、画面は本当に美しく、風光明媚な景色と車内に漂う喪失感とのコントラストは、幻想と現実の狭間をゆれる薄明の眩さを放つ。
帰りにちょっと海辺まで流しに行きたくなることは間違いない。
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