踊る猫

ドライブ・マイ・カーの踊る猫のレビュー・感想・評価

ドライブ・マイ・カー(2021年製作の映画)
4.2
ひと口で言えば「喪失と再生」を描いた映画であると言える。原作を書いた村上春樹自身がまさにこのテーマで数々の話題作を記してきた人物だが、濱口竜介はその春樹の短編群(具体的には「ドライブ・マイ・カー」や「シェヘラザード」)を混ぜ合わせながら、更に人と人とがつながったり心を通わせあったりするとはどういうことかという「ディスコミュニケーション」の問題をクローズアップして映し出す方向へと舵を切ったようだ。この映画では常に「ディスコミュニケーション」が問題となる。それは家福と妻の音の間の「ディスコミュニケーション」や、俳優たちが外国語や手話を交えながらやり取りする「ディスコミュニケーション」といった形で現れる。この律儀さは悪く言えばかなりあざといとも言えるが、そうした律儀さに裏打ちされた計算高さがこの完成された脚本や映画そのもののクオリティを保証していたとも言えるので悩ましい。だが、私はそんなに前のめりになって観られなかった。やはり長過ぎるというのもあるし春樹の世界が実は「女のいない男たち」で構成された「隠れホモソーシャル」な人間関係に裏打ちされた世界であることが期せずして大写しになっている印象を受けたからなのだと思う。
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