ドント

サン・ラーのスペース・イズ・ザ・プレイスのドントのレビュー・感想・評価

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 1974年。ジャズ演奏家にして宇宙大使であるサン・ラーが地球外よりやって来て、「音楽で衆生を救う……地球はもう終わっている……」とか言いつつ演奏したり説法したり、靴のデザインをバカにされたりNASAの手先に捕まったり、地球の資本主義と搾取の化身みたいな黒人のオッサンとカードゲームで宇宙の命運を占ったり演奏会を開いたり、最終的には見どころのある人間だけを連れて宇宙船で出発、愚民の残る地球が超爆発、真っ二つ、完。そういうSF映画。
 どんな映画だよって言われてもこの通りのあらすじなのであって、観てもらうほかない。サン・ラーの思想とか当時の黒人の立ち位置とか社会運動、あるいは音楽性などが入り混じって出力された作品であることはわかる。選民思想、と言ってもよい結構過激なことを描いていると同時に、客に暴力を振るわれる娼婦の皆さんも救っているので、よりひどい扱いの黒人優先ではあるけれど、肌の色に関わらず広く「蹂躍され搾取されている人々」まで救済の視野に入っている。
 こういう風にマジメなことを書いているにも関わらずイマイチこうグッと熱が上がらないのは本作、全体にブラック・スプロイテーション (70年代のアフリカ系アメリカ人向けの乱暴な娯楽映画)の手触りしかないからである。なんかね、雑なの。「この雑さがカウンターだったんだよ!」と叱られたらそれまでなんだけど、それにしても雑なの。アクションものやセクシーなやつなら多少の妥協の余地はあれども、言うたらこれミュージシャンによる伝道、布教映画でもあるわけじゃない?  そうなりゃもうちょいこう、キメるところはキメたり、「うわぁサン・ラーさんすげぇーッ! 俺も改心しますッ!」 と思われるパワーがないと、アリガタミがないわけである。
 宇宙船サン・ラー号の外身や衣装のデザイン、船が空をフヨフヨ飛んでくるあたりには妖気が宿っていてあぁこりゃいいな、と思うんだけど、当のサン・ラーさん、あんまり演技にやる気がない。なんか全体に覇気がない。重みと説得力がない。とは言えこれも映像力のなさゆえかもしれぬ。
 ラストに待ち構えるライブで盛り上げてくれればよかったのに、音楽というよりはサン・ラーと女性コーラスによる説教なので心が持っていかれない。ここも選曲をミスってだけなのかもしれない。そんなこんなでデザインだけが突出してイカしている映画、という感想を持つだけなのであった。まぁ最後は地球が超爆発して人類が滅んだので、そこはね、潔くてよかったんじゃないでしょうか。
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