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誰かの花のおむぼのレビュー・感想・評価

誰かの花(2021年製作の映画)
3.9
 団地の6階のベランダから鉢植えが落ち、新しく引っ越してきた住人に当たった「事故」を取り巻く話。
登場人物の視点の差で誰も被害者であり加害者になり得るし、映画自体のジャンルはミステリーにもスリラーにもなり得る。
だから唯一人に共感するべきではないが、誰にでも共感させようとしてくるしそれが成功している映画。

 うだつのあがらぬ主人公が、苦労をしてきた親を守るため、悪い疑いを信じずに嘘を溜め込み続ける感情に対する掃き溜めのメタファー、鉄工所のシーンの嫌さがとても良い。
演劇の練習のような、TVリモコン電話を家族で回すシーンで何もわからなくなっているようで何かわかっているような、日常の些細な会話で家族が思い出の中で生き続けると悟った末のどん底の感情は、溶接バーナーで花びらを燃やさざるを得ないと大納得。

 悪天候や曇天による画が多いのも良い。ついでに団地の部屋の中も暗い。
強過ぎる風の日(台風の日を狙えたのか?それもすごい)は劇中のアリバイだし、 映画はその目に映るものだけで判断しろと言うのならば、見た目から気分がどんよりしていくのもとても良い。

 事故被害者遺族の会のセラピー(ドキュメントなのか?)、加害者と被害者のケーキ屋での邂逅、好奇心で車のアクセルをふかしてみる被害者遺族の少年のシーンが良い。
少年の思いがけぬ逆立ちとパンチと最後の眼差し…それは不覚にも笑えるが、そこに刺さるはエレベーターを降りて「なーんちゃって」と囁いていたお母さんと仲良しのあの女の子の真実を追い求める正義感。

 気の抜けないメタファーと演技の感情の強弱が目立ち、ところどころ頭の中で散漫な印象はあるものの、見た後に反芻して、ああ〜やっぱり嫌だねえとなるおもしろさがある。
何もかも都合の良いこと以外も忘れてはいけない戒めの体現でもあると思った。
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