未島夏

ズーム/見えない参加者の未島夏のレビュー・感想・評価

ズーム/見えない参加者(2020年製作の映画)
3.9
2020年の激流を潜り抜け、辿り着いた2021年。

その初めに観る新作映画を、Zoomを用いたリモート制作であるこの作品に出来た事には、色々と感慨があった。

昨年の緊急事態宣言下、国産のリモート制作作品に触れる機会こそ多かったが、国外のコロナ禍の影響を色濃く受けた作品を本格的に、しかも劇場という空間で体感するのはとても新鮮である。



前半は敷かれる伏線に気を配りつつも、どうしてもリモート制作による構造をいかに利用しているかに目が向いた。

前述した国産のリモート作品には発表までのスピードも重視してなのか、編集点の少ない作品が多かった。

それらと比較してこの作品は、Zoom内の一画面化を多用する事によって人物一人一人へのクローズを細かく行い、それに伴うカットの繋ぎ方への工夫が見られる。

そもそもホラー描写をワンカット撮影で行うには恐らく厳しい制作体制であり、劇場公開に耐えうる強度の作品にする為に計算してカットを割るのは当然な気もする。



またこれはリモート作品全般に言える事だが、通話ツール特有の乏しい音響やハウリング、画面のラグや一時停止、切断、さらには背景フィルターのボケ……
などなど、コロナ禍によって国際的なコミュニケーション手段となったツールでの「あるある」をそのままに感じられることで、観客に新しいアプローチでの共感をもたらしている。



カーソル等の画面操作による演出にも注視していたが、この辺りはやはり『search/サーチ』を観た時に感じた心理的な機敏を思い出させる。

だがそれと同時に、人物へのクローズを多用する事で多角的となった視点を利用して、誰が画面を操作しているのかが若干不明瞭になる場面を作り出し、ホラーとしての演出に加えているのが面白い。

やがてその演出が確信的になる瞬間にも、怖いと同時にグッとくる。



そして後半。
霊障が過激化して人物の行動範囲が拡がる(つまりPC…カメラの配置に変化が増える)事で、リモート制作特有の空気を凌駕する怒涛のモキュメンタリー的展開へと雪崩れ込む。

それは白石晃士監督の『戦慄怪奇ファイル コワすぎ!』シリーズを彷彿とさせる様な間髪入れぬ勢いをゴリゴリと感じ、しっちゃかめっちゃかな『見えない参加者』の無双ぶりをビビりながらも楽しんだ。



最後に、この作品はあくまでエンターテインメントだが、「見えざる敵」との対峙は正にコロナ禍に置かれた現代に重ねられている。

無論コロナはワクチンの生成さえ安定すれば少なくとも脅威ではなくなる為、この作品中の『見えない参加者』のように物理的な凶暴性はない。

しかし2021年現在においては、明確な対抗策を打てぬまま人を死に至らしめる点において、あまり差異がない。

コロナを『ただの風邪』なんて風にナメていると、この作品で『ただの心霊ごっこ』とナメてかかった登場人物のように『見えざる敵』から牙を剥かれるのだろう。

誰かの軽薄な行いが他者の命すらも奪うという事が、コロナ禍の影響無くしては生まれることの無かった作品で描かれているという事実は、とても意義深く、無視してはいけないものだ。
未島夏

未島夏