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ZAPPAのKKMXのレビュー・感想・評価

ZAPPA(2020年製作の映画)
3.7
 天才音楽家であるフランク・ザッパのドキュメンタリー。なかなか濃度の高いガーエーでした。ザッパの遺族が管理している莫大なアーカイブ映像から作品を作ったそうです。自分はザッパファンではないため勉強になったな、程度でしたが、ザッパファンならばグッとくる作品だったと思います。


 フランク・ザッパはガキの頃はまったく音楽に興味がなく、もっぱら化学と爆発に関心があったそうです。10代前半に奇天烈な現代クラッシック音楽家みたいな人のレコードを聴いて音楽に開眼。いきなり譜面で曲を書き始める等、ジーニアスすぎる逸話がジャンジャン飛び出してきます。
 やはり大天才のキャプテン・ビーフハートらと交流し、自らバンド結成したザッパですが、当初からポップスであることを否定するスタンスで活動します。人種混合、ジャンルのカテゴリ不能……序盤でこのザマですから、いかにザッパが外れ値の異常天才であるかが伝わります。

 ザッパは芸術的な天才なだけでなく、本当に知的な能力がめちゃくちゃ高い人だとわかります。目的を明確に定め、それに向けての道筋を把握し、きっちり詰めて行く人でした。当然、はっきりとしたリベラル思想を持っており(極端なのでリバタリアンに近い)、思想があるため行動にブレがない。ここまで一貫している人は珍しい。
 まず、自分の音楽は売れない(売れるものを作るつもりはない)ため、別の仕事でカネを稼ぐのですが、マーチャンダイズに目をつけて自分のグッズを売りまくってました。音源の4倍の収入になるそうです。80年代の歌詞検閲についても、ザッパはメディアに打って出て反論を展開しますが、その時はピシッとしたスーツを着込んでインテリそのものみたいな雰囲気を作り出していました。視聴者の信頼を得るには何をすれば良いのかわかっています。
 世界で一番早くインディレコードを立ち上げて、完全な自主制作スタンスを作ったのもザッパ。レコード会社の搾取に67年くらいには気づいて、自らの作品をコントロールする方向に舵を切ってます。売れなくても搾取がないから結構ウハウハだったはず。なんか金持ちそうな家に住んでたし。終生クソ貧乏そうだったジョニサンとはえらい違いだ。
 ザッパを見ていると、自らの力で権利を守って生きるにはどうすればよいのかが伝わります。一方で、それが容易いわかではないのも理解できます。それ故に、やはりザッパは決定的に頭が良い。


 ザッパの目的は、自分が聴きたい音楽を作って演奏させ、自分がそれを聴いて楽しむことです。そのため、バンドメンバーは猿回しの猿とのこと。かなり冷徹だったようですが、スティーヴ・ヴァイを筆頭にザッパをよく言うメンバーも多く、優秀な猿にはよく餌付けをしていた様子が窺えます。ブラック企業の権化・JB(ストしたバンドを全員クビにして新バンド結成するくらいブラック)よりもマシで、ストラマー兄貴やボスよりは冷酷って感じでしょうか。


 ラモーンズやイギー・ポップで育った俺っちとしては、ザッパを聴いて良いと思ったことが無く、今回再挑戦しましたがやはり合いませんでした。
 ただ、こうして2度と聴かないタイプの音楽家の人生に触れられたことは貴重だな、と感じています。
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