「なんか評判高いよな~」と見聞きしたっていう動機だけで、予告篇すら見たことがない状態で鑑賞。
最高過ぎました。
「舐めてた相手が実は殺人マシンでした映画」は世の中に多く、またその中に傑作も数多あれど、本作はレフンの「ドライヴ」や、フークアの「イコライザー」に並ぶ「演出が変すぎる映画」として頭一つ飛び出してる。
あとはS ・クレイグ・ザラーやサフディ兄弟なんかにも通じる「変な映画」。
昔はこういう「変な映画」ってなると、代表的な喩えが「コーエン兄弟」だったんだけど、コーエン兄弟が権威になった後も続々と「変な映画」監督が輩出されてるのが喜ばしい限りで。
で、本作はイリア・ナイシュラー監督作。それすら知らずに観ましたよ。
だから、オープニングのクレジットで「おおお! イリア・ナイシュラーやないか~!」と気付き、期待感マックスになったんですが、そのハードルをも軽々飛び越えてくれました。
本職はロシアのバンドマンであるイリアさん。
商業映画デビューの「ハードコア」がいきなりの大傑作でしたが、あれから6年。
2作目の本作もやっぱり最高。
前作はPOVだったので、基本的にはカット割りという概念がない作品でした。
今回は、いわゆる「普通の映画」なんで、「編集」あるいは「カット割り」が存在するのですが、いやいや、それって全然「普通」じゃないってば!
まず冒頭の日常描写。
これ以上ないくらい「日常描写」を延々とやるわけですが、なんというか「くどい」というか「しつこい」というか、ここですでに「クスリ」と笑っちゃう。
いやいや、その前の取調室での「懐から猫」→「ツナ缶キコキコ」→「お前は誰だ?」「I'm uhh...」→タイトル"NOBODY"ですでにニヤニヤしちゃってたんですけどね。
でもって、コソ泥→ブレスレット奪還。
「キティちゃんのガッデム・ブレスレットを返しやがれ! マザーファッカー!」
ここって、「愛と憎しみの伝説」の"No Wire Hangers Ever!"(私んちでクリーニングから返ってきた針金のハンガーを使うなっつってるだろうが!)に通じる「言ってる内容はくだらないんだけれど、言い方めっちゃ怖いやん!」っていうあのギャグですわね。
カメラアングル一緒やし。
そこから続く「バスの惨劇」。
ここでわかるのが本作全体に通底する演出意図が「やりすぎ感」。
よくある無敵ヒーローじゃないんですよ。結構ダメージも喰らう。
でも、最終的に残酷なことをやり過ぎちゃう。
それが度を越してるんで、観てるこっちは何だかわかんないけど笑っちゃう。
ここの編集もさえてましたね~。
ああ、楽しかった。
そこから先の定番展開も、あ~面白かった!
イリアさんの演出を際立たせる役者陣もよかった。
まずは、主演のボブ・オデンカークさんの地味な感じがよかった。
これ、あれですわ。「96時間」のリーアム兄さんを見た時の感覚。
たしかに、リーアム兄さんはSWプリクエルでもアクションやってるし、私世代なら何よりも「この人ってダークマンだったよね?」だし、あ、さらに遡れば「ダーティ・ハリーのデッドプール」でも頭おかしかったよね? ってことになるんだけれど、シンドラーが強烈過ぎたんで、そんな過去を忘れてたところへの「96時間」。
あれにかなり近い感覚。
あとは「ドクター・エメット・ブラウン」。
この人は、昔から老け役が多い「アメリカの笠智衆」なんだけど、ようやくほんとに実年齢に追いついてきました。
もちろん、ラスボスのアレクセイ・セレブリャコフもよかったし、RZAもよかった。
でね。
オープニングのクレジットにマイケル・アイアンサイドの名前があったのさ。
なもんで、「どこ出てるんだ?」ってずっと注意してたんだけど、全然わからなかった。
帰ってきてから調べたら、あの工場の主の「義理のお父さん」だったわ。
マイケルさん、太り過ぎ!
イリアさん。あんた本職の映画監督じゃないのに、最高過ぎるわ。
イリア・ナイシュラー。
イリア・ナイスだーー。
くそっ、「ヘレディタリー」のレビューを「ありあすたーございました」で締めたのと同じ、苦し紛れの駄洒落終わりじゃんかよぅ、おれ!