ひろぽん

漁港の肉子ちゃんのひろぽんのレビュー・感想・評価

漁港の肉子ちゃん(2021年製作の映画)
3.8
天真爛漫で惚れっぽく数々の男性に騙されてきた食いしん坊で脳天気な母の肉子ちゃんと、対照的にしっかり者でクールな小学生の娘・キクコ。そんな親子2人が、流れ着いた小さな漁港で、地元の人たちと共に暮らしていく笑いあり涙ありの日常を描いた物語。


タイトルは『漁港の肉子ちゃん』だが、主人公はどちらかというと肉子ちゃんよりもキクコ視点で物語が描かれる。冒頭からキクコのナレーションで始まり、肉子ちゃんがどんな人生を歩んできたのか半生が語られる。

天真爛漫で惚れっぽくて男性に騙され続けてきた肉子ちゃん。男性との関係が終わるとたちまち別の土地へ移り住むという暮らしを続けていた親子が辿り着いたのは漁港のある港町。

港町での何気ない日常を描いた明るい作品だが、発達障害、チック症、貧困家庭、育児放棄、片親家庭、いじめ問題等といった重いテーマが含まれており、とてもリアルな世界観が描かれている。

主にキクコの家庭や学校で抱える悩みに焦点が当てられ、周囲の人情深い人たちの関わりのおかげで温かい雰囲気に包まれている。

小学生5年生という思春期真っ只中で、大人の階段を登り始める子どもと大人の狭間にいる難しい年頃。親を恥ずかしく思う気持ちや、身体の成長、クラスの派閥問題などあらゆる悩みを抱えながらも周囲の人たちと真正面から向き合いながら1歩ずつ大人へと成長していく。

小学校高学年の女子特有の誰かを仲間はずれにして集団の団結力を高めようとするあるあるな行動がリアルで見ていて辛かった。クラスの女子でバスケをする時も、ジャンケンでドラフト形式でチーム決めをするけど、いつも同じようなチーム構成になるというのもいけ好かない。小学校高学年女子の嫌な部分が垣間見える。


肉子ちゃんは苦労人だけど常に笑顔で愛嬌があって楽しそうにしているのはいいが、その反面母親としては心配になる言動が目立つ。肉子ちゃんは明らかに発達障害だけど、誰もそれを指摘せず全てを個性として受け入れる周囲の多様性も素晴らしいなと思った。肉子ちゃんが母親としてしっかりしていない分、娘のキクコが大人びていてしっかり者だから、何とかバランスが保たれている。

J・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』の本を愛読するキクコは、思春期で共感できる部分が多いから好きなんだろうな。

チック症の二宮と会話しているうちに、口に出して言葉にすることで自分の本当の気持ちに気づいていくキクコの気持ちが理解できる。二宮は女心が分かっていて普通にカッコよすぎや。

ぐるぐる巻きのフレンチトーストや、ミスジのステーキなど、美味しそうな料理の飯テロ映像はお腹が空く。

美しい街並みの映像はとても綺麗で落ち着く。そして、肉子ちゃんの寝ている姿や傘をさすシーンなど、『となりのトトロ』をオマージュしたようなシーンを上手く取り入れてたのが印象的だった。

恥をかくことは悪いことじゃないし、恥をかいて生きていくという説教が心に突き刺さった。

親子で同じ名前だったり、全く似ても似つかない容姿が気になっていたが、終盤30分で親子の秘密が明かされていく怒涛の展開が感動的でとても良かった。

「生きてるだけで丸儲け」という明石家さんまの言葉の通り、辛いことも楽しいことも全部含めて、どんな状況でも幸せに生きていく事が大切なんだな。

どんなに辛い体験をしてもいつも幸せそうにしている肉子ちゃんの振る舞いが答えなんだと思った。

大人向けで、内容も絵のタッチも好みが分かれそうな作品。個人的には良かったと思う。
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