カツマ

薄氷のカツマのレビュー・感想・評価

薄氷(2021年製作の映画)
3.9
迫り来る狂気。それは極寒を切り裂く殺意、薄氷に潜む冷酷な死神。いくら助けを求めても、その豪火のごとく慟哭は燃えることを留めやしない。警察官、犯罪者たち、そして、恐怖の追跡者による三つ巴のバトルが勃発。だが、それぞれの意思はぶつかり合いながら、雪だるま式に鮮血の夜を濃淡に染めていく。絶体絶命の状況下で生き残れるのは果たして誰か?死はすぐそこにあり、手ぐすねを引くように瘴気の渦を深めていった。

Netflix発のスペイン映画にして、『嵐の中で』や『その住人たちは』など、同じくネトフリ作品への出演も多いハビエル・グティエレスを主演に迎えた、サスペンス要素を兼ねたアクションスリラーである。囚人たちが乗り合わせる護送車が何者かに襲撃され、勤勉な警官は四面楚歌の中で突破口を開こうと孤軍奮闘、極限状態がヒリヒリとした緊張を終始張り付かせるような作品だ。そこには埋没した真実があって、掘り起こされる時を今か今かと待っている。

〜あらすじ〜

異動初日、警官のマーティンは初対面の同僚モンテシノスと共に、夜勤の護送車勤務へと向かった。それは複数の囚人たちを移送する任務であり、中でも人身売買などで捕まったラミスは要注意人物。マーティンとモンテシノスはピリピリとした緊張感を纏わせながら、囚人たちの持ち物検査を実施した。囚人の中には軽犯罪者から、凶悪犯まで6人が乗り合わせており、彼らは護送車に押し込まれても何かとガヤを飛ばしては、モンテシノスをイラつかせた。
極寒の中、いよいよ護送車が発進。運転席にはマーティンが座り、モンテシノスは見張りについた。その最中、ラミスは脱走を企てようと、持ち込んだ針金で手錠を外し、トイレの中へと隠れることに成功。行動を起こさんとしたそのタイミングで、護送車は何か固い物にタイヤを取られ停止した。運転席のマーティンからは警備に当たっていた前方のパトカーは見えない。モンテシノスが何事かと様子を見に行くも帰ってこない。いよいよマーティンは護送車を降りてみると、そこに何者かの影が忍び寄り・・。

〜見どころと感想〜

スペイン映画らしいあっさりとした死にっぷり、次第にサバイバル感を強めていく恐怖の坩堝。警察官vs囚人vs殺人者、という構図が謎めいていて、囚人と殺人者はタッグなのか?と思わせる前半部から、実はそんな短調な構図ではないことが明かされる後半部まで、怒涛のスピード感で突き進む。主人公の警察官は常に絶体絶命の状況下で、囚人たちも外の様子が分からず混乱、殺人者は標的も明らかにしないままに殺しまくる、という混乱の連鎖が今作の面白さでもある。

主人公マーティンを演じたのは数多くのスペイン映画に出演してきたハビエル・グティエレス。彼は『誰もが愛しいチャンピオン』など、大ヒットしたスペイン映画でも主演を務めていて、スペイン映画を追っている人ならばお馴染みの顔だろう。更には、最近ではアレハンドロ・エメナーバルの新作に出演しているカラ・エレハルデがとある役柄で登場、悲哀の滲んだラストは名優の実力を遺憾なく発揮させることとなった。また『静かなる復讐』のルイス・カイェホは、物語を動かすバイプレイヤーとして、独自の存在感を見せている。

このようにスペイン映画シーンの有名俳優を揃えた豪華な作品ともなっていて、終盤まで謎が謎のまま残される脚本も、こちらの脳裏を掻き回すように上手く作用している。死人が死を紡ぐような悲劇の連続が主人公を襲い、その真面目で勤勉な警察官としての姿を徐々にグラつかせる。そんな彼が最後に見せる表情とはどんなものか。それこそがこの映画の醍醐味であり、どうしようもない哀しみの一つの末路のようでもあった。

〜あとがき〜

正直、あまり期待はせずに観たNetflixオリジナルのスペイン映画でしたが、意外にも面白くて、一気に観ることができました。俳優が豪華なので、それぞれの鬼気迫る熱演は手に汗握る展開を助長し、我々に抜群の没入感を与えてくれます。

善悪と法。実は矛盾しているそれらの要素がチラつくクライマックスはやるせなくて、空虚な切なさを予感させます。そんな重いテーマを内包しながら、今作は混沌のブラックホールに我々を放り込んでは、薄氷の出口へと我々を導いていくのでした。
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