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カランデイバのシネマノのレビュー・感想・評価

カランデイバ(2018年製作の映画)
3.6
『心は軽やか、この身だけが重く縛りつける。人間が求める自由を描き切る…新世代の最注目監督・萱野孝幸デビュー作』

これからを担っていくであろう監督のデビュー作や初期作品、名を轟かせることになる一作を観た時の高揚感は、映画で得られる醍醐味のひとつ。

自分で言うと、記憶に新しいところでは以下が挙げられる。
・荒木伸二の【人数の町】(20)
・片山慎三の【岬の兄妹】(19)
・三宅唱の【きみの鳥はうたえる】(18)
・田中征爾の【メランコリック】(18)
・二宮健の【THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY リミット・オブ・スリーピング ビューティ】(17)
・小路紘史の【ケンとカズ】(15)
(小林勇貴の【孤高の遠吠】(15)も衝撃だったなぁ…)

どれもが観ているうちに得も言われぬ高揚感が湧き上がり、観終わったころには興奮で疲労さえ感じたことを覚えている。
初期作品には、観客の心に刻もうとする獰猛なまでのエネルギーが宿っているからなのかもしれない。
そして、本作もまた、そんなエネルギーを感じられる一作であった。

福岡初のインディーズ映画として制作されたという本作。
188分に及ぶ長編だが、群像劇かつ7日間を追っていくという構成で飽きさせない。

・片想いをしている女子高生と、想われている男子高生
・バイトとの両立に身を削りながらも役者を目指す青年
・初恋が実った小学生カップル
・社会を知り、この世界で自然とひきこもることを選んでいたニート
・その日暮らしの旅を続ける、5人の男女

それぞれの何気ない日常がめくるめく構成で展開し、それぞれの世界が少しずつリンクしてゆく。
決して派手ではないものの構成は見事で、そして何よりインディーズ映画としては驚愕の映像がここにある。

恋の高揚感、若き者の心のフィルターを通して映る儚くも美しい夕焼けの世界
焦燥感や閉塞感がねっとりとこびりついたような影の世界

青春、コメディ、ロマンス、サスペンス、果てはホラーまで
ジャンルを横断するかのような演出と映像には恐れ入った。
また、脚本についても、純文学にも似た心情の揺蕩い、ヒリヒリすような夢と現実、社会問題にも通ずるマルチ商法のセミナーと囲い込みまで、自由自在だ。

作品を通して、人間の心はどんな制約を受けることもなく自由であること
しかし、地球に重力があるように、この世界では心を宿すその身が重く、私たちを自由から遠ざけ、望まぬ現在地に縛りつけられること。
美しくも残酷な世界で、それでも人はここではないどこか、今日とは違う明日、望んだ自分のために、もがきながらも何を決断し行動し、そして何が変わらず、何が変わってゆくのか。
そうしたテーマがばっちりと描かれていた。

萱野孝幸は本作において、監督・脚本・撮影・編集までを担っており、その才気を遺憾なく発揮している。
188分という尺からも、持てるものを詰め込んだ感は確かにある。
しかし、限られた制作費、規模のなかで本作を生み出してしまうとは…単純に「すごい」という言葉が真っ先に浮かんできた。

本作でも特に印象に残った、マルチ商法の世界や恐怖心をかきたてる映像は、
今後、彼が心をヒリヒリ・ざわつかせるサスペンスやホラー映画を作った時に、傑作を生み出す可能性に満ちていた。

すでに【夜を越える旅】(21)が話題になっていることもあり、早く観たい気持ちでいっぱいである。(【夜を越える旅】を楽しむために本作から手を出した自分)
そんな、これからを担っていってほしい萱野孝幸監督のデビュー作として、必見の一作だった。

…にしても、あのバースデーケーキには度肝抜かれたなあ。若き日々の幸せがたしかに刻まれてた。

▼邦題:カランデイバ
▼採点:★★★★★★★☆☆☆
▼上映時間:188min
▼鑑賞方法:ストリーミング鑑賞(U-NEXT)
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