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MIND GAME マインド・ゲームのシネマノのレビュー・感想・評価

MIND GAME マインド・ゲーム(2004年製作の映画)
4.2
『観るドラッグ!超ハイテンション・テンポで、魂の疾走と人生を全肯定してくれる名作アニメ』

天才アニメクリエイター・湯浅政明を世界に知らしめた一作。
久しぶりに見返してなるほど、色褪せぬカオスな傑作ぶりに、思わず笑ってしまった。
(昔に観たときは、ワケが分からずエンディングまで駆け抜けた記憶がある…)

初恋の子、みょんちゃんの前で信じられないほどダサい死に様を晒してしまった主人公・西くん。
その死に至る過程や、(不覚にも)笑けて仕方ない死まで、すでに他の追随を許さない容赦なさである。
(いまのアニメでもはやこれは倫理的に許されないかもしれない)

そんな死を受け入れられるワケがない西くんは、再び生き直すチャンスを得る。
課せられたことは、たったひとつ…
"全力で生き直す”こと。
初恋の人、みょんちゃんの手を取り動き出したら最後、映画はその魂の行く末までノンストップで突き進む。

カオスな映像表現、唐突な踊りや異世界の出現、幾度も高速でフラッシュバックする過去…
これこそ、人の魂と意識の表層と深層そのものを表したかのようなカオスでドラッギーな映像の連続に、終始圧倒される。

しかし

その映像はただ奇をてらっただけではない。
ドラマが進行していくうちに、カットインされる映像の意味が観客には分かってくる。

・日々のなんてない一幕
・(初恋レベルの)稲妻がほとばしる瞬間
・希望に胸が高鳴った夜
・悲しみで泣き叫んだ夜

あらゆる人生にはドラマがある、ということがだんだんと明かされていくのだ。

人は生涯のうちにその身と心を何度打ちのめされ、生きながらえるのだろう。
それこそ死にそうな昼と夜を、幾度迎えるのだろう。
そこからの復活は、決して容易ではない。

それでも

人は生きることでしか笑うことはできず
まだ見ぬ明日を迎えることができず
愛する人と抱きしめ合うことができないのだ。

ならば、いかなる逆境にあっても、その魂が宿る身と心で生き抜くしかないのだ。
生きる理由なんて”死にたくない”で、ひとまずは十分だ。
これまでに辛苦もあれば、喜びや愛だって知らぬうちに注がれてきた身と心で、人生を疾走するのだ。

その先に、きっと今と違う自分がいるだろう、今とは違う場所にいるだろう。
人生とは、それすなわち長く儚いマインドゲームであるのだから。

ケツの穴から命を奪われた西くんの疾走が、今を生きて本作を観ている人の魂を全肯定してくれる。
見終わったあとには、きっとマインドがジャックされて、何かに向けて駆け出したくなる一作。

個人的には、終盤の足首が折れてからの一幕が、たまらなく好き。
何度、自分のこれまでを後悔すればいいのか…
しかし、知らずして注がれていた愛(=牛乳)。
自分を突き動かすエンジンは、自分でも気づかないうちにそっとブチ込まれているんだ。
だから、迷わずに進みたいと選んだ道を踏み抜け!
わずか10秒にも満たない超高速の描写で伝わるメッセージにシビレた。

観る人によって、そんな"好き”が百通り以上はある、カオスな傑作アニメ映画だった。

▼邦題:マインド・ゲーム
▼英題:MIND GAME
▼採点:★★★★★★★★☆☆
▼上映時間:103min
▼鑑賞方法:ストリーミング(U-NEXT)
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