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雪山の絆のシネマノのレビュー・感想・評価

雪山の絆(2023年製作の映画)
3.8
『事実に基づく絶望・極限のサバイバル。しかし制作意義を追求したことが伝わる力作』

昨年末の注目作として挙げられたNetflix映画、J・A・バヨナ監督作。
1972年、ウルグアイ空軍機571便の墜落事故とサバイバルを描いた本作は、凄絶な映画であった。

【インポッシブル】(12)を作った監督だからこそ、下手な甘さはないと覚悟はしていたが…
案の定、序盤の衝撃的な墜落描写で映画世界にガツンと引き込まれる。
(用意していた映画のお供たちはその後、ほとんど手をつけられることはなかった…)

そこから始まる、極寒極限のサバイバル。
その多くが若い学生たち。
体力はあれど、知識はまばら。
ましてやサバイバルに長けた人間も、英雄的な人間などいるはずもない。

絶望的な状況下で、しかし事実として生存者はいた。
生存者は、どのようにして生き残ったのか…

本作を観たならば、倫理観を揺さぶられる生き残りの方法も同時に直視しなければならない。

命は等しく平等に大切なものという意味で、重い。
しかし、事故や自然の猛威を前にしては、あまりに軽い。
家族のもとに帰りたいという思いだけでは、その命を地上に繋ぎ止めることはできない。
生きたいという思いさえ消し飛ばされ、いっそ死んでしまいたいと思えど、そこに穏やかな死はない。
生きて帰りたいという願いと同時に、絶望的な死をどうしても避けたいから命をつなぐ…という本能まで描かれるからこそ、本作のサバイバルは凄絶だった。

自分はこの事故について、本作で初めて触れたため、本作に仕掛けられた構成はよかったと思う。
映画的な救いや展開はないが、生存者と亡くなった人たちのどちらに寄ることもなく、生きることの本能を切り出した点において、制作する意義を追求したことが伝わってきた。

絆は目に見えず、亡き人の想いも聞くことはできない。
それでも、本作が手を抜かずに描いた絶望的な状況下で生存者がいたこと。
同じように幸せな日々を願った人たちの命がつながれたという事実に、感動とはまた違う、心にずしりともたらされる余韻があった。

気軽に観る映画とは違うが、Netflix映画のなかでも秀作に入るであろう一作。
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