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Saltburnのシネマノのレビュー・感想・評価

Saltburn(2023年製作の映画)
4.0
『現代寓話の筆頭作家、エメラルド・フェネルが2作目もやってのけた!欲望 vs 格差が行き着く究極の着地点とは…』

昨年末にエメラルド・フェネル監督から贈られ、瞬く間に話題となり、自分も年間ベストに滑り込ませた一作。

現代寓話を映画で創造する傑出した作家たち。

その筆頭といえば…
【ロブスター】(15)、【聖なる鹿殺し】(17)、【哀れなるものたち】(23)が日本公開を控えるヨルゴス・ランティモス
【フレンチアルプスで起きたこと】(14)、【ザ・スクエア】(17)、【逆転のトライアングル】(22)も最高だったリューベン・オストルンド
自分のなかで真っ先に思い浮かぶのは、この二人だ。

そんな知的でグロテスクなまでに可笑しい現代寓話、その筆頭にエメラルド・フェネルも本作を送り込んだことで躍り出たのではないだろうか。

前作【プロミシング・ヤング・ウーマン】(20)では、『レイプ・リベンジ』をテーマに世界に抜群の”毒”を贈ってくれた。
そして、本作では『人間に本能的に備わる欲望 vs 人が生み出した格差』を、どこまでもゴージャス、ポップ、グロテスクに描き切る。
前作に続いて、最初から最後まで痺れまくりであった。

前作でフェネル監督のミューズとなった、キャリー・マリガン。
可憐で美しかった若かりし頃から、いまや最高峰の演技派女優ともなった彼女の功績はすごかった。
(【マエストロ】(23)の演技も絶品でした…)

そして、彼女に負けず劣らず、本作の格を上げまくった”ミューズ”は、バリー・コーガン。
全編にわたって彼にのみ込まれるような感覚は、最高の演技をした証であろう。
彼の演技を堪能するだけでも、本作は観るに値する。

そしてバリー・コーガン演じるオリヴァー、彼と相対するフェリックスを演じたジェイコブ・エロルディの色気も凄まじく、ここから一気にスターダムを駆け上がってゆくでろうことがうかがえる。

他にも、友情出演として華を添えるキャリー・マリガンに加えて、
妻を演じさせたら映画好きであれば恐れ慄くであろうロザムンド・パイクの起用も、作品のうまみを増々に。

人間は本来、地球上の生物のなかでもか弱い生き物だ。
信じられない奇跡のような、そしてとても繊細な身体の作りで命を保っているだけだ。

しかし、人間はその欲と知恵で地球を支配した(気になっている)
その欲と知恵は、当然のごとく人類を平等には扱わない世界を選んだ。

至極当然のように格差は生じ、現代でもそれは広がるばかり。
そして、現代では世界中のその格差の上も下も、ネットやSNSで数秒のうちに覗けてしまう。
この捻れてしまった格差社会で、人の欲における病理の部分も大きく捻れてしまった。

どれだけ努力して同じコミュニティにいたとしても、その”差”は見えてしまう。
その”差”を埋めようと、自分を大きく・美しく見せたとしても、ボロが出る。
しかし、その”差”から目を瞑り、逃れることはもうできない、その味を知ってしまったのなら。
ならば人は、この地球を支配した(気になっている)、究極の欲望はどこに行き着くのか…
本作がその臨界点へと連れて行ってくれる。

魔法が本能にすげ替えられた【ハリー・ポッター】
恋が欲で覆い尽くされた【君の名前で僕を呼んで】
そんな超濃厚なファンタジードラマとして楽しむこともできる。
しかし、その本質は【プロミシング~】と同様、私たちの生活に寄り添っているという恐ろしさに震える。

もう、この毒の味を知ってしまったのなら、エメラルド・フェネル監督を追いかけずにはいられない。
自分のことはさておいて、この毒に酔ったままということにして…

すでにアメリカやイギリスで再熱している、最後に流れるソフィ・エリス・ベクスター『Muder on the Dancefloor』(01)。
例に漏れず、自分もリピートが止まりません。
(軽快さはバリー・コーガンよろしく、もちろん着衣で楽しみながら…)
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