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アルマゲドン・タイム ある日々の肖像のシネマノのレビュー・感想・評価

3.9
『子供が視る(視えてしまう)この世界の格差・差別・断絶…美しくも残酷なジェームズ・グレイの自伝的物語』

昨年の日本公開で、静かに好評であった本作をやっと鑑賞。
改めてジェームズ・グレイの底力を知るというか、ここへきて静かなる力作を生み出したことに感動を覚える一作だった。

そもそも、それだけでも観るに値する実力あるキャスト陣。
アンソニー・ホプキンス、アン・ハサウェイ、そしてドラマ【サクセッション】シリーズで大ファンにならざるを得ないジェレミー・ストロング。
このキャストを自伝的映画に呼べてしまうのだから…なんとも贅沢かつ監督への信頼は折り紙付きだ。

核となるドラマは、子供の視点で映し出される、格差・差別・断絶である。
物語の時代は1980年であるが、その形が少し変わっただけで今もなお残る(というか、悲しいかな一層邪悪になりつつある)ものだ。
大きなテーマながら、子供の世界でもそれらの悪しき影を避けて生きることはできない。
学校や家族、友人という決して大きくはないコミュニティにも、影は伸びてくるのだ。
そして子供にとっては、学校や家族、友人こそが世界の全てであるのだから、さあ大変だ。

本作では、大きな事件やド派手な展開が主人公に降りかかるわけではない。
しかし、静かに、そして丁寧かつ正直に、それでいて残酷なまでに(上質な演技・演出・撮影による)、人生や価値観を変え得る出来事が連続していく。

もちろん、悲しいことばかりではない。
確かに、希望や愛をその身と心に感じる瞬間もあり、そのシーンはとても美しかった。
まさに、私たちが生きてきて、長いあいだ大切にされ、ともすれば美化される、愛おしい「記憶」が誕生する瞬間が、この映画にはあった。
特に、祖父(アンソニー・ホプキンス)との会話のどれもが、主人公の今後の人生を変えるものだったろう。

人生に起こる良いこと、悪いこと、そのどちらもあって人はできあがる。
本作で主人公に起こること、その終盤での主人公の行動ひとつひとつ。
優れた映画監督に違いないジェームズ・グレイが、どのように(自分の)世界を見ていたかを通して、観客も一緒にこの世界を見つめられる。
そんな、静かだが、映画としての力は抜群の一作だった。

▼邦題:アルマゲドン・タイム ある日々の肖像
▼英題:Armageddon Time
▼採点:★★★★★★★☆☆☆
▼上映時間:115min
▼鑑賞方法:ストリーミング鑑賞(Amazon Prime Video)
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