たま

対峙のたまのレビュー・感想・評価

対峙(2021年製作の映画)
4.5
一時も目が離せない緊張感。
たったひとつの言葉に、発した人も、聞いた人も、微妙に変化する表情。
心の動きが静かに静かに表面に表れる。
だから、画面から目が離すことが出来ない。

ほぼ密室での、4人の会話だけの映画なのに。

銃乱射事件の加害者の両親と、被害者の両親が対峙するというシチュエーション。

それだけで、どんな修羅場が待ち受けているのかと想像するも、お互い社交辞令から始まり、ぎこちない会話が繰り返される。
余りの気まずさから、見ているこちらも体が固まる。

夫婦でも、言いたいことや聞きたいことは異なる。遮ったり促したり。
こんな言葉にするのもはばかる事ばかりじゃ、それぞれに考え方があっても当然だと思う。

被害者の両親は、なぜこんなことが起きたのか知りたいと願う。それは当然のことだけど、たとえ親でも子供の心のうちの全てを知る訳では無い 。それでも何かヒントになるものを得たいと思い、対面を望んだ。

息子の心の闇に、気づけなかった加害者の両親。自責の念はあるものの、父親にはまだ保身を感じるし、母親は吐き出すことへの苦しみかあった。

全てを理解することの難しさ、全てを吐き出すことの難しさ。

終盤に、被害者の母親が、加害者の両親を許せば息子を失うことになると思っていたけど、それは間違いだったと語る。

“赦し”によってしか、自分自身の心を“癒す”ことは出来ない。

簡素な部屋でのたった4人の会話劇。音楽で高揚させることも無く、回想シーンすらない。
確かな演技力が無ければ、成り立たなかったはず。それぞれの迫真の演技にどっぷりと浸かった。
たま

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