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対峙のドントのレビュー・感想・評価

対峙(2021年製作の映画)
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 2021年。これはね、いい映画でしたね。教会の奥の一室を借りて、二組の夫婦が話し合いの場を持つ……というあらすじだけ仕入れて観るのがベストだと思うんですが、ポスター/ジャケットからしてそうはいかないわけで、しかしできるだけ内容に触れないように感想を書きます。
 登場人物は9人、台詞があるのは7人だけというミニマムさで紡ぐ、立場を異にした夫婦の「対峙」を、110分のうち80分くらいを前述の一室で展開させる映画である。回想はない。ドアが閉じられた後は風景がポツッとわずかに挟まれる以外、カメラも人間も部屋から出ない。なかなかチャレンジングな映画である。
 言うまでもなくこういう映画においては「脚本」「演技」「カメラワーク・演出」がものすごく重要になってくる。で本作は、3つ目の要素に少し物足りなさを感じた。ちょいと人に寄りすぎというか、こういう難しい、ウンウン唸る内容であるにも関わらず、人間の動きや顔の切り取り方が綺麗すぎると思った。
「それぞれに意見や考えはある程度持っているけれど、全部をキッチリ理解したり納得しているわけではない」という人々の集いであり、夫婦間でも折り合いがついていないし、自分の中でも呑み込めていない部分が多い。
 そういう曖昧な混乱、割り切れなさを俳優たちは見事に演じているけれど、その表情や言動をカメラがきっちり押さえすぎているので、枠に入って作られた曖昧さや混乱に見えてしまうのだ。カメラによる描写に幅と深みがもう少し欲しい。
 なんかしゃらくせぇことを書いたが、狭い空間で人が揉めたりする映画には一家言あるのでお許し願いたい。書いた通り主役たる二組の夫婦の演技は素晴らしいもので、押し引きや忍耐、「駆け引き」の具合などなどを十全に魅せてくれる。特にアン・ダウトが実に魅せる。『コンプライアンス』の店長役、『ヘレディタリー』のババア役でその実力は知っていたけれど、やはりいい役者だ。
 このミニマムさ故に舞台演劇的ではあるものの、冒頭と終盤にくっついてくる「外」との接続によって、本作はこちら側と地続きになる。気を回しすぎて若干迷惑な女性職員と、理由はよくわからないがここで働いている若い兄ちゃんが実にいい。この人たちが二組の夫婦を世間から切り離した存在にせず、生きた人間に見せてくれる。そんなわけで惜しい気持ちも残るが、110分グッと惹き付ける映画であった。
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