きよぼん

そして僕は途方に暮れるのきよぼんのレビュー・感想・評価

そして僕は途方に暮れる(2022年製作の映画)
5.0
友人・知人から相談事をされると、人は「素直になれよ。ちゃんといえよ。行動しないとダメだよ」と言っちゃうものである。だけどイザ自分のことになると、本心がわからず、ちゃんと伝えられなくて、何もできない。他人事には好き勝手「なんでこうしないんだよ」と思うくせに、自分はそれができない。そんな居心地の悪い映画だ。

ヒモみたいな生活をおくる同棲中のフリーター・裕一(藤ヶ谷太輔)。彼女の里美(前田淳子)から「ちゃんと話をしよう」と言われてアパートから逃亡。友人宅に転がり込むが、ゴミ出し、洗濯を人任せにしたことをとがめられ、バツが悪くなって、また逃げる。

とんでもねえガチクズぶりに腹抱えて笑っちゃうけど、これって他人事だからかもしれない。自分だったら菅原みたいに逃げないのか?と言われると自信がない。

裕一っていうのは悪人なのか?というとそうでもない。自分がやったことに少しだけど反省してるのが切ない。そして彼は不器用なのだ。みんなでご飯を食べるとき料理を運ぶシーンがあるんだけど、他の人はパッと行動してるのに、菅原は一瞬遅れて気がつく。その一瞬の気遣いが遅れたことがコンプレックスで、拗ねてしまう。知人との交渉も、もう一回頭下げればうまくいくのにそれができない。わかる、わかるよー。何をしなきゃわかってるんだけど、一瞬遅れる。恥ずかしくて行動できない。周りからそれを言われると腹がたつ。クズだなこいつと笑いながら、自分の共感100%。

菅原は恋人、友人、先輩、後輩、家族を転々としていく。野村周平、中尾明慶、原田美枝子、毎熊克哉など豪華俳優が出てくるところはお楽しみ。自分的には久しぶりに姉役の香里奈みれたの眼福。

しかしなんといっても父親役の豊川悦司!裕一などザコキャラにすぎないボスキャラぶりで、レベルがちがうクズぶりをみせてくれる。その達観した生き方から妙に心に響くことをいう。だめだなこいつと思う反面、憧れみたいなものを持ってしまうナイスキャラなのだ。

だけどこれ、他人事だから思うこと。じゃあ現実に親父みたいになりたいか?と言われれば、うーん嫌かな、と思っちゃう。他人事と自分事。別の視点に置き換えれば映画と現実だ。

映画のつくりとしては、ダメ人間に笑える映画でもよかったはずだ。しかしこの映画が選択したのは、現実を生きる観てる人へのメッセージだ。痛快爽快だけではなく、「やるせなさ」「切なさ」を加えながら映画は終わっていく。「そして僕は途方に暮れる」という名曲のタイトルにふさわしい作品だ。
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