タスマニア

コーダ あいのうたのタスマニアのレビュー・感想・評価

コーダ あいのうた(2021年製作の映画)
2.0
2022年16本目。

絶賛レビューが多い中で水を差すのも気がひけるが、個人的にグロテスクな脚本と楽観的な展開を綺麗に消化できなかったというのが正直な感想。

ただ、「毒にも薬にもならない映画」という意味の低評価ではなく、自分の個人的背景からどうしても許容できないという感情に出会ってしまったという意味での低評価。
つまり、個人の感想がはっきりする映画として、「見て良かった」というのも正直な気持ち。

一番キツかったのは、ルビーの母親がルビーに対して面と向かって、歌への興味と可能性を否定するシーン。
否定というより、馬鹿にしたような表情で一蹴した感じかな。
ああいう軽率な親の行動って、子供の自尊心や自己肯定感を簡単にボロボロにするんやで。
そして、母親にとってのその言動のモチベーションが自分達の生活の安定を脅かす「"娘の自立" の足を引っ張ること」であるのが余計にキツイ。
やや、身近で覚えがある展開で、すごく心がザワザワした。
ある意味その後、母親は娘を素直に応援するようになったけど、そこの心変わりってちゃんと描かれていたっけ?急に人が変わったように思えた。
「娘が聾唖者じゃないと分かったときに、気分が沈んだ」というセリフも結構エグくないか?笑
勿論、気分が沈んだ理由も説明されていて理解はできたけど、共感はできず、それはそれで更にあの母親のキャラクター性を自分にとって受け入れ難いものにしただけだった。
個人的に期待していたのは「娘が聾唖じゃないと分かった時に、心から安心した」というセリフであり、それが母親というものなんじゃないのか、なんて思ったり。
ただ、これはある意味、聾唖者の方々にとっては "リアル" であり、非常に優れた描写なのかもしれない。
同時に、健常者としての自分に聾唖者として生まれた人の立場を全て理解できるはずもないし、"親" と "子" の関係性を美化しすぎているのかもしれない。

あと、ルビーが自分の夢に向かって進学することで「他の家族にとって、仕事や社会との関わりにおいては難しい課題が残る」という事実は変わらず、そこにあるはず。
それは、ルビーと家族がどんなに対話を通して、理解し合おうが変わらないはず。
ただ、なんとなく、母親も父親もお兄ちゃんもルビーなしでも、上手くいくようになっている描写があった。
個人的には「そこをちゃんと描いて欲しいんだよ!!!」って思った笑
障がい者の社会参画を社会の共通課題とした時に、周囲の人がどんな風にマインドを変えてくれたのかを描いて欲しかった。
「そこはこの映画のスコープじゃないんだよなぁ」って言われたら、納得するしかないんだけどね。
結局「その人のことを知りたい・理解したい」と思い、彼らのプロトコルを習得する動きをしたのは、ルビーの友達の女の子だけじゃなかったかな。

この世の中にはルビーほど苦しい状況じゃなくても、家族の事情で自分の人生の選択を強いられている子供はたくさんいると思う。
それでも、ルビーのように本人に大きな夢があり、才能があり、その才能を理解してくれる人が周りにいないと、子供が自分の人生に向き合えるチャンスが回ってこない・・・というように見える筋書きはグロテスクじゃないか?というのは、考えすぎかな笑

そんな感じで、結構いろいろ躓いちゃったなぁ。

同じようにストーリーのプロットが割とグロテスクだった「ディア・エヴァン・ハンセン」を自分が許容できた理由を考えてみた。
それは単純に、自分の身近な話といい意味であまりリンクしなかったことと、楽曲が自分好みだったからかも。
うん、この映画の楽曲はあんまり自分が好きな歌じゃなかったのもあるかも。

あ、でも、ルビーを演じていたエミリア・ジョーンズの歌声や演技は素敵だった!
そして、何よりマイルズが「シング・ストリート」のコナーの俳優だったのがテンション上がった!ちょっと大人になってたし。

ストーリーやキャラクターに関して受け入れ難いものが多かった印象だけど、お兄ちゃんの感情だけはすごく共感できたし。

実際、この映画は何の映画だったんだろう。
もし、自分のこの映画の捉え方が違っていたのならば、感じることももう少し違っていたかも。
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