keith中村

女と男のいる舗道のkeith中村のレビュー・感想・評価

女と男のいる舗道(1962年製作の映画)
5.0
 ゴダールでいちばん好きなのはこれかも。
 4Kレストア版が配信されていたのでものすごくぶりに再鑑賞。
 
 最初に観たときは、アンナ・カリーナ演じるナナが手紙を書くシーンに不思議なデジャヴを感じて混乱した。
「あれ? この映画観たことないのに、この手紙の内容を俺は知っている。なんで?!」ってなったのだ。
 しばらく考えてそれが、あがた森魚の「最后のダンスステップ」だと思いあたった。
 あの歌の冒頭(CDを聴き直したら、ひとつ前の曲「月曜のK」のアウトロ扱いになってた)で、この手紙の後半部分とほとんど同じ内容が朗読されるのである。
 「あぁ、元ネタはこの映画だったのか」
 年齢が22歳から18歳に、身長が1メートル69から163に変更されているけれど、内容はまったく同じ。
 
 だけど、本日観直したら、字幕が新しくなったのか、あまり似てない印象だった。というか、仮にこの字幕で初見だとあの歌を思い出すことは難しい、というくらい違っていた。あがた森魚と私は同じ昔の字幕で観たんだろうな。
 
 ともかく本作では、この手紙を書くシーンと、ビリヤード場でナナが踊るシーンが大好き。
 ミュージカルでなく、日常で踊るシーンとしては、クリスティーナ・リッチが「ムーンチャイルド」に合わせてボーリング場で踊る例のシーンと並んで大好き。
 
 ところで、ゴダールと言うと眉間に皺を寄せて観たり語ったりしなきゃ、という風潮があるし、私も若い頃はそんなタイプの人間だった。それを変えたのが前田敦っちゃんの「前田敦子の映画手帖」。あの人は、「アンナ・カリーナが可愛い!」の一点突破でゴダールの映画を軽々と楽しんでいたのだ。これにはぶっとんだし、打ちのめされた。
 こっちじゃなく「女は女である」の感想だったかな。でも同じこと。
「こうやって楽しんで鑑賞できる方が、観客の姿勢としては数段崇高なんじゃないか?」
 それ以来、私はどんな映画でも「楽しんで観る」というスタンスでありたいと思っている。
 
 だから、私は前田敦子という人を女優として凄いと思っているのはもちろんのこと、人としても尊敬している。
 前田敦子が映画に向き合う視線は、本作で「裁かるゝジャンヌ」を観るナナの視線と同じものである。