牛猫

東京自転車節の牛猫のレビュー・感想・評価

東京自転車節(2021年製作の映画)
3.5
新型コロナウイルスの世界的な流行によって代行運転の仕事を失った彼が、自転車配達員として生計を立てる自身を記録するドキュメンタリー。

コロナ禍により山梨で職を失った青年が家族の心配をよそに東京に出稼ぎにいくところから映画が始まる。祖母お手製の青いマスクを着けて年季の入った自転車で出発しようとしたところ、街の名物おじさんに呼び止められてジュースを奢ってもらう。この一連のシーンが生まれ育った街の温かさとこれから出稼ぎにいく東京の街並みとの対比になっていて良い。

映画の内容としてはUberの仕事の厳しさに絡めて、今の日本を取り巻く貧困の現実をやんわりと映し出すような内容。
コロナ禍になってから確かに街中で配達員を目にすることが多くなったけど、今ではすっかり風景の一つとして馴染んでしまった感じがある。簡単に始められて会いた時間に手軽にできるというのが利点なんだろうけど、雨の日も風の日も構わずタピオカ一個であろうが届けなければならないというのを実際に映像として目にすると居た堪れなくなった。
家があって、仕事があって、食べるものや寝るところがある。当たり前のようなことだけど、恵まれていることなんだと思った。

大学の先輩でもある「沈没家族」の土さんの家でのケンローチに対するぼやきも印象的。

監督の人柄が随所に垣間見えるのも面白い。初めてのデリヘルでの失敗や、アパホテルの安さに感激するところは思わず笑ってしまった。
これからUberを始めようとする関西からでてきたという二人組にエールを送るシーンなんかも監督の優しさが表れていて素敵だった。

この映画の公開から半年が経とうとしている現在、依然として厳しい状況が続いているし、これから監督がどのように道を切り拓いていくのかその道筋は描かれないけど、明るい人柄とテンポの良さで厳しい現実をポップに切り取った優れたドキュメンタリーだった。

いつかこんな時代もあったと話せる日がくるといいな。
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