こねずみ

ディア・エヴァン・ハンセンのこねずみのネタバレレビュー・内容・結末

3.7

このレビューはネタバレを含みます

演技や歌が物凄く上手くて世界観に引き込まれた。
ストーリーについては賛否両論ありそう。


〇ベン・プラットが本当に凄い
話し方や挙動に「作り物」感が一切ないし、泣きの演技のときはボロボロ泣くし、歌がとにかく上手いしで素晴らしかった。
特に、コナーの家で嘘を告白したとき涙ながらに歌った"Words Fail"は、エヴァンの本心が溢れ出すような演技・歌い方で心が震えた。曲の終盤に"Waving through a window"の冒頭が入っててジーンときちゃった。

〇曲がとにかく良い
流石ミュージカルという感じで、とにかく名曲揃い。キャストの歌唱力も凄くて、観ていて飽きない。
個人的にはやっぱり"Waving through a window"が好きだなぁ。悲しい歌詞だけど、曲調は凄く爽やか?で壮大で、ド頭の曲なのにクライマックス感が凄い。いつか生歌で聴いてみたい。

〇劇的/現実的 がどっちつかずのストーリー
個人的に気になったのは、ミュージカルらしい「ご都合主義的展開」と、やけに苦々しい「現実的展開」が混ざってて、どういうテンションで見ればいいか分からなくなったこと。
例えば、
・コナーは嫌われていたにも関わらず、エヴァンの追悼スピーチが簡単にバズった上、コナープロジェクトの賛同者が爆増する
・憧れのゾーイに告白されあっさり結ばれる
こういう展開はとてもミュージカルらしくて、ご都合主義的展開だなぁと思いながら観てたんだけど、
エヴァンの嘘がバレた後、ある程度の贖罪はしたにも関わらず、周りの人には嫌われたままで、ゾーイ一家ともさよならする形(完全な仲直りはできてないまま?)になってしまったのは、かなり渋くて現実的な展開(終わり方)だなぁと思ったり。

〇エヴァンのメンタルが分からない
これは上に書いたこととも関わるんだけど、エヴァンのメンタルが弱い時と強すぎる時の差が激しくて、「本当にこんな展開になるかなぁ?」って思ってしまうことが度々あった。
エヴァンは社交不安の薬を服用していて、人と話すことも一苦労だし、セラピーにも通っているほど、本来は人一倍心が弱い子。
なんだけど、物語が進むにつれて症状がなぜか治まっている(?)感があって、最後に嘘がバレて孤立するところに至っては、普通の人でもきついんじゃないかというレベルの精神的ダメージのはずなのに、何故か全く動じない。
自分もメンタルは強くない方なので、ストーリー中盤まではエヴァンに感情移入しながら観てたんだけど、最後らへんは辛すぎて「自分なら生きていられないな」くらいに思っていたから、なぜエヴァンが突然鋼のメンタルになったのかが分からなくてついていけなかった。
もちろんメンタルなんて人によって千差万別だし、ただ私の感覚と違ったというだけの話でもある。
それに、見た感じこの物語は【辛いことは誰かに話そう】っていうテーマっぽいので、エヴァンの嘘がバレた後、お母さんにいろいろ打ち明けたことがポイントでメンタルが急激に強くなったのかな?とは思うんだけど、あれだけ盛大かつトラウマレベルのやらかしで食らった精神的ダメージに対する措置があの母との会話だけっていうのは、ちょっと足りないかなと思ってしまう。
エヴァンの「自分との闘い」はこの物語の核になる部分だと思うし、エンドロール後にあんなメッセージを出すくらいテーマを重視してるのなら、もうちょっと「エヴァンのメンタル回復の過程」を大事に描いて欲しかったなぁ。

今回のやらかし(嘘バレ)がエヴァンの精神を強くするための「試練」のようなものだとするなら、
社交不安で服薬してる子にとってはあまりに高すぎる壁だなぁと思うし、試練を乗り越える過程があまり伝わってこなくて残念だった。

あと、最後の果樹園の場面、エヴァンがゾーイに対して「初めて来たよ(笑)」とか言うシーン、
あなた果樹園でコナーと遊んだって嘘ついて総スカン食らってるのによくそんなヘラヘラできるね!?メンタル鋼ですか!?って思ってしまった。あのシーンのエヴァンは明らかに別の誰かだった。


〇エヴァンだけが酷い目に遭う
これは人によって感想が分かれるところだと思うけど、私は基本的にエヴァンに感情移入していた側だったので、「なんで最後ぜんぶエヴァンのせいみたいになるの〜!?」って思ってしまった。
だって、そもそもエヴァンの話も聞かずに遺書だと決めつけ、仲良しエピソードを無理矢理語らせたコナー母も悪い。ゾーイだって、コナーにいじめられるところを目撃してたんだから、もう一押しエヴァンに助け舟だしてあげなよって思ったし(関係ないけど奨学金のこと勝手に家族に話したのもちょっと嫌だった)
手紙を無断でアップしたアラナも悪いし、元はと言えばコナーのエヴァンに対する態度が極悪すぎた。
みんなちょっとずつ悪いのに、エヴァンの悪かったところばっかりフォーカスされて、罪がのしかかってる感じがした。
もちろんエヴァンだって悪いんだけど、そもそもエヴァンは薬が必要なほどメンタルが弱い子なのであって、そんなところにコナーの暴言&コナー親からグイグイこられたら受け止めきれないに決まってる。なのに、最後はエヴァンだけ孤立して終わりなんだなって。
なんだか、メンタルの弱さにつけ込んで、利用されるだけ利用されて捨てられた感じがしちゃって、観ていて辛かった。本当に"You will be found"な映画なの?って思ってしまう。
同じようにメンタルが弱い人がこの映画を観ても、「怖すぎる、やっぱり人間社会無理だわ」とはなれど、「辛かったら誰かに話そう♪」とはならないんじゃないかなぁ。


総括すると、歌と演技は素晴らしいけどストーリーは賛否両論という感じの作品だった。
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