skk

ニトラム/NITRAMのskkのレビュー・感想・評価

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
4.0
オーストラリア最悪の無差別銃撃事件(ポート・アーサー事件)の犯人がその行動を起こすまでを抑制的なトーンで描写した作品
最後の事件勃発時の描写が非常に控えめなところからも、それまでの過程にフォーカスした作品であると理解しました

主人公のニトラム役を演じている俳優が非常に巧く、「こいつはちょっと近寄りたくないな…」と感じさせる不安定な感じを完璧に演じ切っており、この映画の説得力にかなり貢献していると思います
主人公に限らず、良い人なのだけど何かどこかズレているヘレンや厳格な(厳格に接せざるを得なかった?)母親、どうにか息子をケアしてあげたい父親といった人物造形が非常に上手 特に母親役は表情一つとってもリアリティにあふれていた

主題からして当然なんですが、全体的に見ていてかなりしんどい映画ではあります
社会に上手く溶け込めずに疎まれてしまう序盤のニトラムも見ていてキツイものがあるし、ヘレンと出会ってからも幸せそうでありながらどこか危うい雰囲気(この辺りでヘレンがかけてるクラシックがまた不安を誘う…この映画、音楽の使い方も巧みだと思う)

ヘレンの事故以降は父親の件もあり主人公がどんどん精神的に不安定な状況に追い込まれていくのだが、いつ暴発するかわからない不穏さがあって静かな中でも張り詰めた緊張感が漂っており、鑑賞する側としては結構ハラハラさせられる サーファーに馬鹿にされてる下りとか、ほんとに危うい
BGMもピッチの外れたピアノやレコードプレイヤーからのノイズで不安定さを追体験させられるよう
母親に対する涙ながらの独白は、自分ではどうしようもないという苦悩に満ちてて胸が詰まる(それを聞く母親もどうしていいかわからず苦悩している様子なのが切ない)
とにかく助けがないまま追い詰められて事件を起こす主人公を見ていると、どこで何を出来たら良かったのかと最後の静かなスタッフロールの最中思いを巡らせてしまった
日本でも「無敵の人」なんて言葉がちょっと前に出てきたけど、割とマジでこれに対するケアっていうのを検討する必要があるよな、という思いを新たにした

この事件がきっかけでオーストラリアの銃規制が見直されたとのことだが、それまで一般人がサラッとM-16派生型みたいなライフルとかショットガン買えるってぐらい緩かったってのも凄いことだな…

結構にシビアな主題だが、主人公に必要以上に寄ったり遠ざかったりせず、フラットな姿勢で描いている点で好感が持てました
この手の事実ベースの話のものではかなり良い映画だと思います
skk

skk