あきらむ

ニトラム/NITRAMのあきらむのレビュー・感想・評価

ニトラム/NITRAM(2021年製作の映画)
4.0
ここ最近更新していなかったのでちまちまその間観たのを更新していきたいです。コロナ禍に入って直接映画館に行く習慣が減ってしまい、オンデマンドばかり観ている問題もあります。

28歳の発達障害傾向にある青年が銃乱射事件を起こすまでの過程の話。

とても痛い映画で、観てらんねぇ~と思う部分が多いです、でも良い。痛い!のは暴力描写ではなく心が痛いのです。

この話は実際に会ったポートアーサー事件という大量殺人事件を元にしています。だからといって、殺人の場面が主というわけではなく、殺人の場面は殆ど描かれていません。至るまでの家庭、なんというか毒草が芽吹き花を咲かせるまでの過程を観ている感じですかね。

本人は頑張って生きようとしてるのですが、親も周りの人間も、主人公に辟易しており、隠す気もないのです。誰と喋っていても基本気持ち悪いか、なにか爆発するのでは?という雰囲気があり、主人公の表情も常にどこか、ここにいて、ここにいない感じがします。確実にここにいる時は怒りや殺意を感じている時だけです。その時だけは、凄まじいエネルギーの元この世界に存在しています。

主人公に魅力を感じ、恋人兼家族兼ペットのように扱う老女性、歪ですが良いカップルだと思いました。最終的に地獄みたいなことになり、主人公が発狂しかけるわけですが、ここで主人公が自分を抑えて打算的なセリフを吐くところに、おや?と思いました。主人公は純粋な子供なような精神を持っていると思ったら、嘘をついたり人をおちょくるのもとても好きです。人は成長過程でこのあたりのボーダーラインを学ぶんですが、彼はここが理解出来ていない。でもやってしまった!っていう意識はあるから、都合のいい嘘だけはうまくなるんですよね。

彼に罪悪感ってあるのか?と考えると彼は割と常に死にたがってるので、あるような気もするのですが、ここで現れる希死念慮は自罰というより、もう、全部わかんないし、疲れたよ、俺は愚かだ、という方が大きいと思うんですよね。だから、自分ではなく他人を殺す方に向かっちゃったって言うか、、。全てのエピソードがそんな装いを帯びてます。

最近もまた銃乱射による大量殺人が起こりましたね。ことが起こってから人は騒ぎますが、予備軍みたいなのは何億倍も地中に眠っており、たまたま彼らは様々な日常の出来事が地獄のように噛み合って、暴発してしまう。

日常の中で、折り合いが付けられないことはたくさんあります。ひとつひとつをどうやって乗り越えるのか。迷路に迷い込んで爆発するしかないのか。
こういう爆発がおこるたび、自分を省みながら、どうすべきか、考えてしまいますね。