えびちゃん

春原さんのうたのえびちゃんのレビュー・感想・評価

春原さんのうた(2021年製作の映画)
4.5
凄まじい行間の多さと聞いていたので理解できないかもと不安に思っていたけれど、そんなことは杞憂だった。
思っていた以上に行間は空間だらけでびっくりしたし、なんなら観終わってから読んだたった5行のあらすじと、思っていたストーリーはやや乖離があった。それでも観て受けた感動はなにも損なわれず、どう受け止めても本当に素晴らしい作品なんだと思った。
ナポリタンにはじまり冷やし中華、どら焼き、ケーキ、と食べる描写の反復に、食べることは生きること、命をつなぐことだと感じた。さっちゃんが自発的になにか食べようとしたことはなくて、他者が振る舞う。周りの人たちが何としてでもさっちゃんを生かそうと、あなただけはどこにも行かないでと言っているように思えた。
みんながさっちゃんをスマホで写すのも、さっちゃんを繋ぎとめているようでやはりその背景を思うと悲しい。みんなが優しければ優しいほど計り知れない悲しさが漂っているように思えた。
いつだっていちばん会いたいひとはこの世にいない。風が通り抜けるように去っていってしまう。残された人間は生きていくしかない。だから食べて、寝て、自分のために生きていかなくちゃいけないよな。春原さんともういなくなってしまった大事な人たちを重ね合わせた。ずっとこの作品のことを考えている。本当はいちばん帰りたかったお盆のこの日に観られてよかったと心から思う。
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