リコリス

くじらびとのリコリスのレビュー・感想・評価

くじらびと(2021年製作の映画)
4.6
記憶違いでなければ、クレイジージャーニーで見たような…。西洋文化圏では否定されてる捕鯨だけれど、クジラが死ぬまでの姿は仲間が助けに来たり、赤い血を流しながら目を見開き潮を吹き尾ビレで海を叩いたり、命の塊がのたうち回るようで、確かに人間が感情移入してしまう何がが海洋生物にはある。

それと真っ向から対峙する命。高齢でも子どもでも肉体労働で生きる人たちの身体は、野性的筋肉質。陽に焼け皺が刻まれ深みのある風貌。さらにラマレラ村は皆カトリック教徒だそうで、敬虔に自然と神に祈りを捧げる姿にも心打たれる。

スマホがあり、バリ島から金銭に追われたくないと戻ってきた親でも漁よりまず学校にいかせる、けっして時間が止まっているわけではない村だが、舟を作る「アタモラ」は、口承実作業で技を伝承していき、舟の命が人を守るから古い舟の木材も活かす。木のくさびだけで帆まで草で編んで作る。「ラマファ」という銛打ちが亡くなり遺体が上がらなかったら海に流したオオムガイを遺骸として葬る。鯨の解体、海の鯨を陸の食べ物などと交換する市場、子どもたちの海遊び、祈りを神に捧げてからいただく食事、一張羅を纏って集う教会、海で亡くなった人々を悼む灯籠流し。

彼らの生活には過剰さや無駄がなく、常に自然と命に向き合う宗教的な高潔さがあり、それで私たちは羨ましいような美しさを感じるのか。

一番美しいのは、腕組みをして立つ獲物を探すラマファを舳先に、真っ青な海に漕ぎ出す海人たち。

海の音、風の音、クジラがたてる音、人々の生活の音…情緒的な音楽は、私的には要らない気がした。
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