レオピン

13デイズのレオピンのレビュー・感想・評価

13デイズ(2000年製作の映画)
3.8
冷戦時代は過去のものと(一応は)されているが、未だ核戦力が頂点にあることに変わりはない。冒頭にしつこいまでに映し出されたあのキノコ雲から何を汲みとるか。

核が世界に行き渡った時代に世界戦争など起き得ないのだが、そんなありえない事態に陥りかけた10月の2週間。未然に終わった第三次世界大戦。

大戦争の引きがねを託されたのは、ジョン・F・ケネディ ニキータ・S・フルシチョフ
この両者に地球人口30億(当時)の命運は握られていたわけだが、結果はただの偶然に翻弄されて幕を引いた。

袋小路に追いやられお互いに裏テーブルでの交渉を試みる。ソ連はフルシチョフの戦友でもあるKGBスパイを使って。アメリカはウォルター・リップマンにコラムを書かせ妥協案としてトルコからのミサイル撤去を匂わすなど(シナリオでは兄弟がやらせたことになっていた)して。

クレムリンの中の権力配置。書簡から読み取れるフルシチョフの心理状態。かすかな気配を嗅ぎ取ってなんとか相手の意図を探り妥協の線を見いだす。ここまでくるともう恋人だ。海上封鎖で徹夜続きのマクナマラ長官が吠える。これはかつてない言語だ。フルシチョフと大統領とのコミュニケーションだ!

本当はここで地球の歴史は終わっており、今の世界は誰かが見ている夢なのかもしれない。世界線がズレていればとっくに死の星になっていた。この実感がないとこの映画はただの密室劇にも見えやや退屈だろう。動きのあるところは米軍機の偵察とかソ連船の臨検(隔離と言い換え)のところぐらい。当時のフィルムなど多少使っていたようだがこの作品を観たあとでドキュメンタリーなどで補うと更に背筋が寒くなる。

あの時ソ連船の護衛についていた潜水艦に向けて爆雷投下を命じて寸手で中止となったが、あの潜水艦には核が搭載されてたんだよな。米側はこれを知らなかった。危ないとこやで。核戦争では潜水艦が一番の主役。ソ連の現場の将校が一番偉かったのかもしれん。
とうとうデフコン2に引き上げられ世界の米軍基地は臨戦態勢に。沖縄の在日米軍も核ミサイルをいつでも発射できる準備を整えていた。照準は北京はじめ共産圏の主要都市だ。

映画ではアメリカの指示系統は相当グダっていた。緊迫下なのに予定されていた核実験をそのまま実行してしまうとか。軍部が勝手に演習を始めてしまったりと、相手の誤解を誘うような行動が散見された。ソビエトから見たら普通に喧嘩売ってるでしょ よう我慢したな 
アンダーソン少佐の偵察機が撃墜された直後にも、偶然とはいえアラスカ上空でU2がソ連領空に入ってしまい一触即発となる。あのカーティス・ルメイの進言どおりにキューバ基地を空爆していれば間違いなく反撃にあい世界は破滅しただろう。知らない奴ほどよく吠えるがそいつは絶対責任をとらない。

ケネディ・テープの存在によりこのエクスコム会議でのやりとりの詳細は記録され後世に残った。ケネディは誰も信用していなかった。何より最も強硬論をぶっていたのは弟のロバートだった。ソ連側だって強硬なカストロの対応に苦慮したことや、国内のタカ派との対決にいかに時間を費やしたか。
一つケネディの得点としてあげれば議会に対して閉じていたこと。これが幸いだった。議会の声を優先していたら間違いなく攻撃していた。アメリカがデカい戦争を起こすのはきまって民主党政権の時だと言われるのもあながち間違いではない。このような状況では民意ほど危ういものはない。

キューバ危機後、米ソはいったんデタントの方向へ向かうが、各陣営内では中ソ、米仏の離間が生じ、米ソの二極構造から多極化の方向へ進んだ。そしてまさかの米中接近となり混迷の70年代を迎える。

1961.1  ケネディ就任
1961.4  ピッグス湾事件
1961.8  ベルリンの壁建設
1961.10 ソ連水爆実験
1962.10 キューバ危機
1963.8  部分的核実験停止条約調印
1963.11 ケネディ暗殺
1964.10 フルシチョフ失脚

20世紀最大の危機と言われた13日間。ケネディもフルシチョフも戦いの入り口まではある程度想定して駒を進めることが出来た。だがそこから垣間見えた穴、地獄の顔に戦慄した。

この後に両国首脳間にはホットラインが設けられ、戦争回避に向けた努力や研究も行われた。有名なのは社会心理学者ジャニスの指摘したグループシンク(集団浅慮とか集団極性化)の問題。そこでは、ピッグス湾はダメな事例、キューバ危機はよい事例として取り上げられる。
相手の心を真剣に探り合い、どうやったらこの泥沼から抜け出せるかということに最大限の知恵を振り絞った二国の指導者。この時の教訓は活かされているのだろうか。

当時はまだ大戦の記憶が色濃く残っていた。そして次の戦いは核戦争になるのは必至だと、誰もが広島長崎の焼野原を思い浮かべることができた。この集合無意識とでもいえるものがあの時一番貢献したのではないか。
日曜の朝コスナー演じるケネスが、日頃家族の前で強い父であったが、安堵のあまり大粒の涙をこぼす。こういう心境だけは子供たちには絶対味わわせたくないと思っただろう。

⇒音楽:トレヴァー・ジョーンズ

⇒バーバラ・タックマン「八月の砲声」
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