great兄やん

カード・カウンターのgreat兄やんのレビュー・感想・評価

カード・カウンター(2021年製作の映画)
4.6
【一言で言うと】
「堅実を騙る“贖罪”」

[あらすじ]
ウィリアム・ティリチは、上等兵として特殊作戦に携わった際にアブグレイブ捕虜収容所で罪を犯し、服役した過去を持つ。ギャンブラーとして再起を図りながら、孤立や絶望から脱し、人々とのつながりや愛情を感じられる日々を手にしたはずだったが、彼はフラッシュバックする過去に犯した行為に苛まされていく...。

骨太かつ硬派。“カードカウンティング”というマニアックな題材を描きつつもその裏でアメリカが犯してきた“罪”に深く切り込むポール・シュレイダー監督は、まさしく“勝負師”そのものの気概と気骨を感じますし、『魂のゆくえ』同様洗練かつ淡々とした世界観なのにも関わらず、感情が逐一突き動かされるような情感を宿す技術の巧さが今作でも冴え渡っていましたね...

まずなんと言っても渋い、渋すぎる。全体に伝うヘビーな質感もさることながら、そこから更に主人公の抱える過去の“大罪”を静謐にもジリジリと深く炙り出すあの香ばしさが堪らなく良い。直接的でも間接的でもないフワッとした描写なので明確に分からないモヤモヤ感は残るものの、それを見事に考察へと促す“導線”として昇華できているのが何よりも凄かった。

それにオスカー・アイザックの演技力と存在感の渋さも堪らないですし、燻し銀な魅力とビターな物々しさを漂わせるあの表情と佇まいは観ていてただただ身震いするばかり。米メディア評でキャリア史上最高の演技と言われるのも十分に頷けますし、改めて好きな俳優だと確信を持てるパフォーマンスでしたね🤔...

とにかく主人公ウィリアムの抱える罪に“赦し”は訪れるのか、鈍重な世界観でありながら磨きのかかった“高尚さ”を感じる果てしなく味わい深い一本でした。

アブグレイブ刑務所で行われる拷問の内容を魚眼レンズで映し出すという強烈な映像表現は、まさしく監督の滲み出る反戦意識が如実に析出されたであろう生々しさを感じましたし、何よりも『タクシードライバー』からそのスタンスが一切ブレていないのが凄すぎる。まさに“老練”そのものですよね(・・;)...

終始陰鬱なストーリーかと思いきやブレッソンの『スリ』を彷彿とさせるラストシーンのように、ある意味愛は贖罪におけるカリカチュア的存在なのかもしれない。不器用な愛情ほどその贖(あがな)いが罪を晴らしてくれるように...