しおえもんGoGo

LAMB/ラムのしおえもんGoGoのネタバレレビュー・内容・結末

LAMB/ラム(2021年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

これは…どう受け止めればいいのだ?

まずとにかく景色も雰囲気もずーっと陰々滅々。湿度は高いわ、温度は低いわ、洗濯物乾かなそうだわ(服は分厚いのに)、お日様大好きっ子の私には耐えられない土地。
そんな雄大で美しくも、見てるだけで気が滅入る景色の中で、執拗なクローズアップと、淡々とし過ぎる日常と、偏執的とも思える程に些細な音を拾う音響。動物たちの鼻息、身じろぎ、猫が毛を舐める音まで拾われている。
それらすべてがひたすら不穏で不安定な空気をずっと醸し出している。

夫婦がアダちゃんを慈しむ程、特にノオミ・ラパスの愛情深いのにどこか張り詰めたようなすっぴんと相まって、これがいつ崩壊するのかハラハラしっぱなし。
またアダちゃんがあまり表情が豊かではないので、例えば一緒に踊ろうと言われて尻込みしている時にどういう感情なのか、初めて見る酔って騒ぐ俗っぽい両親に嫌悪感を持ったのか、ただ退屈しただけなのかなどが伝わりづらい事も、誰にどう感情移入していいのか分からなくなる。

第三者であるペートゥルが加わった事で何か変わるかと思いきや、あっさり篭絡されたのには驚いたけれど、このまま話がどこに向かっていくのだろうと思っていた矢先に急転直下のラストに突入。
そういうやつ?!(どういうやつ?)と驚く間もなくブチっと終了。

キリスト教的なモチーフがふんだんに散りばめられているので理解しきれていないところが多いのだろうが、これはキリスト教的なものと見ていいのか。
例えば最後のアダの本当のお父さん。外見的には悪魔のような容姿をしているが、キリスト教的なモチーフならば山羊でなければならないだろう。日本人的には「まあ似てるし悪魔でいいか」で済むけど、キリスト教文化圏の人にとって信者の象徴である羊と山羊は厳密に違うものではないだろうか。
という事はあのお父さんは悪魔的なものでは無いのか。それとも「あれは一見悪い存在に見えるが、みんなと同じ羊である」という事が大事なのか。全然迷って無いけど。覚悟ガンギマリの顔してたけど。
それとも何者かなど考える必要は無いのか。善でも悪でも無い「人間とは違う世界の生き物」で、それを母親を殺してまで奪ったマリアが因果応報のように夫を殺されて取り戻されたという事か。
自らの罪をずっと心の底では自覚していたマリアは、これが罰だと悟り、絶望の中でも受け入れざるを得ないというのがあのラストなのか。もしそうならどちらかと言えば仏教的な雰囲気がある。

とまあこんな感じでなんか匂わせが多いので賢そうに色々考えたくなるのだが、あまり深く考察したくなるという食いつきが私には無かった。
個人的に考察させる作品は嫌いではないが、ある程度の方向性は示しておいて欲しいタイプなので、こういう「全部視聴者の皆さんそれぞれで解釈してください」みたいなのは好みではない。

映像はとにかく雄大で、動物たちのちょっとした動きや視線が雰囲気を良く作っている。アダちゃんはなんか可愛いし、CGなのかロボットなのか本物の羊なのかすら分からないようなリアリティもあって映像と音はとても良かった。

人にはちょっと勧めづらい。
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