ジェイコブ

アステロイド・シティのジェイコブのネタバレレビュー・内容・結末

アステロイド・シティ(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

ここはアメリカ西部にある架空の町アステロイドシティ。人口が100人にも満たない小さなこの町でジュニア宇宙コンテストが開催されるにあたり、アメリカ中から「超秀才」な5人の高校生とその家族が集まった。コンテストの夜、会場にいる人々が空を見上げると、突如上空から緑の光を放つ謎の宇宙船が現れる。これは小さな町を舞台に起こった奇妙な珍事を描く喜劇と、その制作の舞台裏に密着するテレビ番組である……。
ウェス・アンダーソン監督最新作。出演がトム・ハンクス、マーゴット・ロビー、スカーレット・ヨハンソンと、キャスト陣の豪華さでも話題となった。
物語は劇中劇で進み、アステロイドシティを生んだ劇作家の苦悩や、作中の登場人物を演じる役者たちの裏側が描かれており、フィクションと分かりつつも不思議とリアリティを感じるストーリーとなっている。また、秀才達による終わらない記憶ゲームや、カメラを向けられ、ついついポーズを取ってしまう可愛らしい宇宙人(アドリブなのではと疑ってる笑)など、複雑な構成の映画ながらも最後まで飽きずに最後まで見せる演出はやはり監督の凄みだろう。
しかし、なぜかウェス・アンダーソンの世界には、やってはいけないことをやりたがる自らの衝動を抑えられないキャラクターが出てくる。そこがポップでコミカルな世界観ながらも、妙に人間臭い登場人物たちの魅力にもなっているのだろう。
一度見ただけでは考察しづらい部分も多いが、「目覚めたければ眠れ」という台詞が鍵となっているように感じた。物語は1950年代、冷戦真っ只中で、ちょうど宇宙開発競争が東西で熾烈な様相を呈していた頃だ。権力者は戦時下であることを口実に、市民に公表されるべき事実を隠し、自らの都合の良いように情報を操作する。宇宙における情報は正にその象徴とも言えるだろう(近年、当時の資料が少しずつ情報が公開され始めてはいるが、核心に迫るような情報は未だ明らかにされていない。)本作では、超秀才の1人が学校新聞にリークした写真がきっかけで、宇宙人の情報は世界中に知れ渡ってしまう。その写真を撮ったのが、戦場カメラマンのオーギーなのたが、作中に彼がなぜか火傷を負うシーンがある。作者曰く勢いで書いただけといったが、宇宙人の写真を撮った事で彼は隠蔽されるべき真実に触れてしまったがために負った代償とも考えられる。「目覚めたければ眠れ」は劇の稽古の中で登場人物たちが合唱する台詞なのだが、この「目覚め」とは権力によって今まで隠されてきた真実に気がつく事を表し、「眠れ」は想像力を働かせ、考えるのを止めない事を意味するのではないだろうか。
そう考えると本作は、ジャニーズ問題で揺れ動くここ最近の日本の状況と奇しくもリンクした映画ではないかとも言える。