きざにいちゃん

ドーナツキングのきざにいちゃんのレビュー・感想・評価

ドーナツキング(2020年製作の映画)
3.5
内戦から逃れ、無一文でアメリカに逃げて来たカンボジア難民の主人公が、ドーナツで億万長者になる波乱に満ちた成功と失敗の半生記。

半世紀近い昔にアメリカンドリームを体現した男の栄枯盛衰の物語も興味深かったが、アメリカドーナツビジネスの現在を伝えるパートが個人的には更に心に響くものがあった。

アメリカンドリームのサクセスストーリーを描く成功記も、この映画のような隆盛と没落の両面を描く物語も決して珍しくはない。それで終わっていれば、沢山ある立志伝や奮闘記のひとつに過ぎなかっただろう。
この作品の卓異は、彼の一代記で終わらず、彼が蒔いた種が世代を超えて大切に受け継がれ、彼が咲かせたものとは異なる別の花を、あちこちで咲かせつつある今の様子を描いている後半だろう。
その受け継がれている意志の生命力に感嘆したし、西海岸におけるカンボジア人コミュニティーの逞しさと寛容性、分断蔓延る現代の中でもまだ人々の間にしっかりと生きているアメリカという国の移民に対するフェアネスが心に響いた。

大手チェーン店の攻勢を跳ね返す沢山の小さな家族経営のドーナツショップたちの努力とそれを受け入れる贔屓客たちとの繋がりのパワーに、GAFAなどの巨大経済とは対極にある、もうひとつのアメリカの力を見るような気がした。

中小企業の6、7割が赤字経営で、中小企業の数がどんどん減っている日本。
中小、零細企業の活力の総和が国の力のひとつの現れであるならば、日本人の我々は胸に手を置いて考えないといけない。

がんばれ、ニッポン!

リドリーのスコットが製作総指揮をしているのは、どういう経緯や意図によるものなのだろう。自身もアメリカンドリームの体現者としてアメリカンドリームは死なず、ということを伝えたかったのだろうか…