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ある男のharuのレビュー・感想・評価

ある男(2022年製作の映画)
4.0
消し去りたい過去。

弁護士の城戸は、谷口里枝から夫の身元調査の依頼を受ける。里枝は夫を事故で亡くしたが、その際夫が身元を偽っていたことが判明。夫はいったい誰なのか?城戸は調査をするうちに、里枝の夫に自らを重ねて思い悩んでいく。

「愚行録」が面白かったので、こちらも鑑賞。他人と人生を交換する話です。こちらも面白かった!
里枝の夫「谷口大佑」の正体を探るサスペンスとして始まる本作ですが、オチだけ見ると物足りない感じがしてしまうものの、彼の過去の回想シーンを見たら、納得の展開。「谷口大佑」がなぜ他人になりすましたのか、その過程がとても丁寧に描かれていて、彼に感情移入してしまいました。
一方弁護士の城戸は、社会的な地位とセレブ生活、さらには幸せな家族を得て、他人から見たら幸せ100%な恵まれた生活を送っているように見えます。しかし彼は自らの出自に関するコンプレックスを抱えており、他人になりすましていた「谷口大佑」に憧れの気持ちを抱く。城戸も「谷口大佑」も、自らが負っているもの自体に引け目を感じているというより、それによって他人から差別され見下されることで、強烈な劣等感を抱いている。自分ではどうしようもないことで他人に先入観を持たれ、自分自身を見てもらえない。私はそんな人間ではない!と言ったところで、聞いてもらえないし、理解してもらえない。なりすましは犯罪ですが、そうしないと生きていけない人がいる。
大切な人のすべてを受け入れる必要はあるのか。本人がそう望んでいるならともかく、本人が知られたくないと思っていることをあえて知る必要があるのか。ラストの安藤サクラのセリフが刺さりました。
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