ハル奮闘篇

ちょっと思い出しただけのハル奮闘篇のレビュー・感想・評価

ちょっと思い出しただけ(2022年製作の映画)
4.0
【 ちょっと思い出しただけで ちょっと思い出した 】 

 惜しいなぁ。そんなに悪くはないんだけど。中盤まではそう思っていた。
 フェードアウトしては一年前の同じ日の同じ時刻に跳んで、遡る。そういう仕掛け、演出はこの映画にはいらないんじゃないかなと思っていた。粋な台詞、ウンチクのある台詞を言わせようとしすぎだし。國村隼のマスターもあまりにもさぁ。

 池松君と伊籐沙莉ちゃん。もうこれ以上ないキャストだからさ、もっとシンプルな演出で二人を見せてくれたら良かったのに。落ち着いて、二人をじっくり見せてくれたら良かったのに。

 でも、じゃあ全然気にいらなかったかって言うと、まぁ、そうばっかりでもなくて。
 良かったのはやっばり終盤。
 ひとつは長瀬正敏の奥さんとのエピソード。そうか、そんなことがあったんですね。
 そしてやっぱり主演の二人が好き。一番好きだったシーンは初めて出会った日の深夜。店のシャッターが閉まっている狭い商店街にて。映画がここまで進んで「そうか、これがやりたかったんなら遡りもありか」なんて思い直した。このシーンと、ベランダの「何考えてたの?」のシーンを隣あわせにしたかったんだね。
 深夜の商店街のシーンでは、過剰な演出はせず、カメラがひいて、二人がはしゃいで踊ったり、じゃれあうのを見つめている。幸せな瞬間だったな。ずっと見ていたかったな。

 「二人で飼っていた猫を引き取った」っていう、池松君と同じ経験がある。きっとだれにでも、自分だけの物語があるんだろう。改札前で三時間も四時間も待って、終電前にやっと会えたりしたな。出掛けるとき、僕が見えなくなるまで窓からずっと手を振ってくれてたな。ノートの一番後ろに、僕の名前をびっしり書いてあるのを見つけて、それが縁結びのまじないだと知って一人でボロ泣きしたな。寝顔を見るとホッとしたな。いつも笑ってたな。四半世紀なんてあっと言う間だ。眠れない夜にふと思い出すこともある。

 映画館を出たら、何の日でもないのにイルミネーションがきれい過ぎて、演出過剰だろ、泣かねぇよバカ野郎、ってちょっと笑った。
 元気かな。元気でいてな。