ひでやん

叫びとささやきのひでやんのレビュー・感想・評価

叫びとささやき(1972年製作の映画)
3.7
今まで観たベルイマン作品は全てモノクロだったので、カラーの映像はどんな色合いになるのかずっと気になっていた。冒頭、秋の陽光が差し込む森の風景が美しい。絵画のような映像にうっとりしていたのも束の間、目の覚めるような鮮烈な赤が視界にドッと広がった。

壁や床、あらゆる装飾が赤で埋め尽くされ、場面転換のフェードまでが赤ときた。その深紅の世界で、死を間近に控えた次女をただただ見守る息苦しさ。見る側に落ち着きのない不安感をたっぷり与えながら、姉妹と召使いによる4人の女性が描かれていく。

姉のカーリンは、ワイングラスが割れても無関心な夫に対し、ガラスの破片で身と心を削る。妹のマリアは無関心という皺を刻みながら、他の男を求める。次女アグネスは、母に愛されなかった過去と現在の痛みに苦しむ。そして我が子を亡くした召使のアンナは、行き場をなくした愛をアグネスに注ぐ。

愛に飢え、叫び、ささやき、渇望する。表面と内面の相違、肉親と他人の距離、性と孤独と死が渦巻くヒューマンドラマにどっぷり浸かった。アグネスの死をきっかけに、赤の世界に流れ込む黒。それは、血縁関係のバランスが崩れたような黒だ。上辺だけの夫婦や姉妹に対し、血の繋がらないアグネスとアンナが誰よりも親密な関係である皮肉さ。

母の回想シーンと庭のラストシーンは、疲れた目を癒す目薬タイムとなり、もっと欲しくなった。死ですべての苦しみから解放されると思いきや、死してなお生きる残留思念。アンナがアグネスに寄り添うシーンが絵画的だった。で、散々赤を散らかした後、沈黙という無色透明を散らかす虚無感…。
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