こたつむり

叫びとささやきのこたつむりのレビュー・感想・評価

叫びとささやき(1972年製作の映画)
3.9
朱の残像。愛の幻影。
言葉は大気に拡散していく。
魂は誰の所有物なのだろう?
はたして自分は何処までが自分で、何処からが自分じゃないのだろう?

端的に言えば三姉妹の物語。
猜疑心に囚われた長女。
病の床に就く次女。
取り繕うのが上手い三女。
彼女たちの織り成す思い出を下敷きに、鮮烈な赤の中で描かれる“死”。それは、とても鈍重で沈鬱。

だから、胸が締め付けられる物語。
日常の一部を引き延ばした退屈な雰囲気。
その隙間から見え隠れする本質。
一見、凡庸な塊に見える“それ”は大きな哀しみに満ちていて、言葉にするのは容易くなく。それは、とても武骨にて不穏。

だから、鮮烈だけど不器用な物語。
登場人物のほとんどが女性なのに色気は無縁。
むしろ、全般的に漂うのは狂気と恐怖。
血だまりに堕ちた花弁を見つめるかのように、尖鋭的な感覚の筆致。それは、とても断続的で刹那。

まあ、そんなわけで。
色鮮やかな世界と対比するように重苦しい物語でした。しかし、ベルイマン監督が描く“細緻な雰囲気”の秘密の一端を垣間見ることが出来た作品でもあります。

と言うのも、これまで僕が観てきた監督の作品は“息を呑むような白黒世界”という印象が強かったのですが、色彩がない世界を描くにしても、色の特徴(特に濃淡)を把握していないと“細緻な雰囲気”は構築出来ないと思うのです。そして、本作はカラー作品…ということで、絶妙な色彩感覚を真正面から味わうことが出来ますからね。容易にお薦めできる作品ではないのですが、この鮮烈な世界観は一見の価値はあるかと思います。

それにしても。
相変わらず監督の作品は感想を書くのが難しいです。最上段から切り捨てるようにして書くとネタバレ必至ですしね。基本的には単純な構造なのですが…どうして、それが観ている側の心に届くと複雑な形になるのか…。やはり、観ている側の心が歪な形に折れ曲がっているから、複雑な残響音になるのでしょうか…。
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