新潟の映画野郎らりほう

デスパレート・ランの新潟の映画野郎らりほうのレビュー・感想・評価

デスパレート・ラン(2021年製作の映画)
2.0
【御用】


人が走る映画が好きだ。
映画に於ける 人の最も美しい動きと思うからだ。

映画で人が走る時、何故美しく そして感動的であるのか。それは それがA地点からB地点への単なる移動手段に非ず、人物の決意と強い想いを表徴するものであるからだ。故に良識ある映画人は、クライマックスに車輌や鉄道での移動、或いは通信危機に依る簡便な意思伝達を良しとせず 人物に全力疾走させる(トムクルーズなぞ確信的である)。

さて本作だ。
息子の危急を人里離れた林の中で識り、急駛する―。
延々とスマホで情報確認/試行錯誤が行われた後、いよいよナオミワッツが疾駆する… と思いきや、直ぐにその歩を止め またスマホへの過依存がはじまる…。

本作を もしマイケルマンやイーストウッドが監督していたら、スマホなぞ直ぐに投げ捨て 唯ひたすら走る行為だけを焦点化した事だろう ― 息子の事がスマホより大切だから―。

走れよ、自らに鞭打って。それが息子に対する親の想いだろう。
車輌に乗車した挙げ句、抱擁時でもスマホを離さないのでは、息子よりスマホ第一義と取られても仕方あるまい。


過去/哀しみ/猜疑迷妄への囚われとしての樹林。息子との隔絶した心理的距離解消への希求。それらモチーフも 母がスマホを捨て去らねば機能せず、iPhone の御用映画としか為っていない。




《劇場鑑賞》